2014/11/24.312
大豆イソフラボン
五十才以上の男性の二割ほどは、多かれ少なかれ、前立腺が肥大して排尿障害に悩まされる。
老化に伴い、男性ホルモンの分泌が減って、女性ホルモンとのバランスが崩れることが原因らしいが、はっきりした事は分からないそうだ。老化だから仕方ないとは言え、場合によっては、肥大症に留まらず、検査の結果悪性の腫瘍が発見される事もあって、決してなおざりに出来ない病気である。
私も五十台半ば、尿の出がやや細くなった事から、昔からある評判の泌尿科で診て貰った事がある。
院長先生の指示でズボンを脱がされ、座面の真ん中に棒の先のような器具が埋め込まれた椅子に座ると、いきなりお尻の穴に、その棒が突っ込まれ写真を撮られたのだ。
老先生の診断は、前立腺が肥大している為の障害で、老化が始まった良い兆候だと言って、「わっ、はっ、はっ！」と笑ったのだ。
あれから二十年もの間、心配した私の前立腺は、老先生が期待したほどには老化が進まず、ずるずると月日が経ってしまった。
ところが最近、尿の出が悪くなり、夜間頻尿も顕著になって、とうとう二度目の泌尿科受診を余儀なくされたのだ。近くの総合病院の泌尿科で、超音波検査や、尿、血液を検査した結果、前立腺に特異的にみられる腫瘍マーカーのＰＳＡ数値が基準値を超えている事から、暫くの間薬を飲んで様子を見る事になった。
ＰＳＡの数値は、年齢によって基準値が設定され、数値が上がるほど前立腺ガンの確率が高くなるが、前立腺肥大症や前立腺炎でも数値が上がるので、黒白決めるには、前立腺に針を十カ所ほど刺し、組織検査をする必要がある。
針生検をした人のうち、２０から３０パーセントの人に、ガン細胞が発見されるらしい。
私のように七十才を超えた人の正常値は、４．０００以下なのに、最初に検査した時の数値が５．１３０で、薬を飲み始めて四ヶ月経った後の二回目の数値は、６．０２０である。
二度に亘って基準値を超えてはいるが、前立腺ガンと決め付ける程数値が高くないし、自転車に乗って、前立腺を刺激した直後の検査では、数値が上がる事もあるそうなので、充分あり得る数値である。
担当医は、薬を飲んでも数値が下がらないところをみると、前立腺ガンも疑わざるを得ないので、次回は針生検で白黒つけましょうと言う。
「先生、針生検は、もう少し先に延ばして頂けませんか？私は、もう七十五を過ぎていますので、充分覚悟は出来ています。ガンかも知れませんが、あと四ヶ月間、薬で様子をみたいのですが？」
「でも、もしもガンだったら、最期は痛い目に遭いますよ。それでも良かったら、あと四ヶ月投薬を続けてみますか？」担当医は脅かす様な口調で言った。
私が、毅然と反論出来た裏には、ある伏線があった。
初診で基準値を上回った事で、私は前立腺肥大症などの病気についてネットで調べ、ある程度の知識を持っていたのだ。病院のホームページや、前立腺を克服した患者などのブログから様々な情報を掴み、それなりの治療法を模索していた。
その中で、私より若い患者の体験ブログで、針生検の怖さを綴ったある泌尿器科の先生のブログが紹介されていたのだ。その先生のブログを読むと、経験豊富な医者であれば、ガンか単なる肥大かは、お尻から指を突っ込む触診だけで、おおかた分かるらしい。
針生検は患者に苦痛を与えるだけでなく、十本以上もの針を刺して、組織を取ると出血は避けられない。それまで前立腺内に留まっていたガン細胞が、外に漏れ出して転移するリスクも少なくないから、針生検は極力やらない方が良いと先生は主張しているのだ。
実際に、針生検を受けた人のうち、二・八パーセントの人が、敗血症などの合併症に罹ったという統計もある。
先生曰く、数値が基準値を超えるのは、前立腺が肥大している為の排尿障害に起因しているケースが多く、基準値を超えていれば即ガンを疑い、何でもかんでも針生検をするのは考え物だと言うのだ。
「成る程。病院側とすれば、怪しければ何でもかんでも針生検で黒白付けてしまえば安心だし、何よりも病院経営に一役買うのは、投薬と検査だと言うからなあ」
ある針生検経験者によれば、検査とは名ばかりで、針を何カ所も刺すので痛いのだそうだ。インシュリンの注射を打つような簡単な事では済まないらしい。
針を刺す場所によっては麻酔を掛けるので、二泊程度の入院が必要だし、手術の場合と同様、同意書を書かされる。単なる検査に同意書とは、ちょっと大袈裟ではないか。
検査というと、便や尿などを紙コップに入れるとか、中ジョッキ一杯分くらいのバリウムを飲むとか、シャツ一枚になって機械と向き合うとかで、何の苦痛も伴わないのが普通である。
せいぜい、腕に注射器を突き立てられて、「いてっ！」と思うくらいのものだ。
前立腺肥大症か前立腺ガンなのか、黒白付ける針生検に拒否反応を示した私に、担当医は、
「じゃあ、あと四ヶ月様子を見る事にしますか？四ヶ月後に数値が上がっていたら、生検しますよ。いいですね？」担当医は強い調子で念を押した
「分かりました。」私はこの時点で、ある決断をしていたのだ。
初診の段階から、私は、担当医の患者に対する言動に疑問を抱いていた。
彼は上から目線の若い医者で、患者を自ら敷いたレールに乗せたがり、インフォームドコンセントが期待出来そうな人間ではないと直感していたのだ。
四ヶ月を待たずに病院を替えよう。ゼロから出直そうと考えた。幸い、同じような症状で治療を受けた知人から、良い医者のいる病院を紹介されていたし、ブログで知り合った人から、前立腺には豆乳が効果的だと言う彼自身の体験が、大いに参考になっていたからである。
私は豆腐専門店から無調整の豆乳を買って来ると、毎朝起床後に２００ccを飲む事にした。飲み始めて三日後に、なんと、顔の肌が何となくスベスベするではないか。
更に、十二日後には、それまで夜間三度から酷い時は四度トイレに立っていたものが、一度か多くて二度で済んだのだ。当然の事ながら、睡眠時間も長くなりすこぶる体調が良い。
豆乳の組成成分に、ポリフェノールの一種である大豆イソフラボンという成分がある。
女性ホルモンと同じような働きがあるので、摂取すると男性ホルモンをブロックする働きをするのだそうだ。
けれども、必要以上に飲むと、男性ホルモンとのバランスが崩れて、乳部が大きくなったりするらしい。
私にはオカマの趣味は無いから、オッパイを大きくしたいとは思わないが、それほどの効き目があるなら期待が持てるというものだ。
更に驚いた事に、豆乳を飲み始めて二十日後に、三年前から悩まされていた臭鼻症が改善されている事に気が付いたのだ。
臭鼻症は、鼻の中の黄色ブドウ球菌の繁殖に起因するものと言われているが、未だ原因も治療法も定かには分かっていない病気なのだ。鼻の中に悪臭が発生して、自然界の臭いが正常に嗅ぎ分けられなくなる。悪臭は人によって様々だけれど、私の場合は敢えて言えば、ハッカが腐ったような嫌な臭いなのだ。
これまで三カ所の耳鼻咽喉科で精密検査をしたが、特に異常は認められず、病名も原因も、勿論治療法も分からないまま帰されてしまった。その後、私がネットで調べたら、萎縮性鼻炎、或いは臭鼻症ではないかと言う事が分かった。
線毛と呼ばれる細い毛を持った細胞が、何かの原因で失われると粘膜に潤いが無くなり、乾燥したかさぶたが出来る。そこに雑菌が繁殖して異様に臭くなるらしい。
そんな難病も、大豆イソフラボン効果で改善したのだろうか？ それとも、悪臭さえ嗅げない鼻になってしまったのだろうか？前立腺と臭鼻症、どちらも大豆イソフラボンに託された期待は大きい。
(完）
脱稿日： 2014/11/24.391
＊ 英ロンドン大学の研究グループが、５０才以上のサイクリストを対象にした、男性機能とサイクリングに関する調査報告の中で、週に８．５時間以上自転車に乗っている人は、３．７５時間以内の人に比べ、前立腺ガンに罹る比率が６．１４倍だそうです。３．７５時間から８．５時間未満の人でも、３倍という結果が出ていますので、５０才過ぎた人は、自転車はなるべく避けた方が良いかも知れませんね。