2013/11/29.289       マンボウの作文                                                  

                                                        

                            UFOは夢か現か

東京の近郊に住んでいる弟からメールが入った。 なんでも、近所でUFOを見た人が沢山いて、大騒ぎになったと言うのだ。
UFOが現れたのは、丁度、彼の家の真上あたりで、二十分ほど宙に浮かんだ状態で、その後は猛烈なスピードで、北の方角に飛び去ったと言う。
道行く人達が立ち止まって一斉に空を見上げたり、国道を走行中の車が止まって渋滞を引き起こしたりと、あちこちで大変な騒ぎになったそうだ。

その頃、弟は奥さんと近くのスーパーに買い物に行き、外の騒ぎを知らないまま帰って来たら、隣のおばさんが興奮して教えてくれたらしい。 彼女が携帯に撮った、UFOと思しき円盤状の物体が写っているのを見て、その場に居なかった事が、残念で堪らないのだと言う。

弟は長野県にある八ヶ岳の麓に住んだことがあって、UFOが見られるのなら、空が澄んだこんな片田舎でしかないだろうと期待していたが、とうとう、そんな幸運に恵まれる事もなく、十年以上住んだ自宅をインターネットで売り、現在の地に住み着いたのだ。
それが事もあろうに、空だって綺麗でないごちゃごちゃした都会に現れたなんて、思ってもいなかったと言う。

その上、近所の人達はみんな見たのに、自分達だけが見ることが出来なかったなんて、不公平も甚だしいとぼやくのだ。 二十分もの間、見るチャンスがあったのに、その間二人は、スーパーで特売のネギトロと子持ちシシャモを、予定も無く買ってしまい、ぶらぶらと無駄な時間を過ごした事を悔やんでいるのだ。

翌日、スーパーの顔見知りのガードマンに、UFOを見たかと訊いてみると、
「見た、見た!テレビのニュースでも放映していたよ」
その時の模様を、興奮気味に話したので、余計悔しい思いが増幅したらしい。 ネギトロや子持ちシシャモなど買わずに、さっさと帰って来れば見られたかも知れないと思うと、ネギトロも子持ちシシャモも美味くなかったと言うのだ。

大体、過去にUFOを見た人の話では、一瞬見たとか、ちょっとの間見たとか、流れ星のようなスピードだったとか言う人がほとんどで、二十分も宙に浮いた状態で、見られたなんて聞いた事がない。随分、のんびりしたUFOもあるもんだと思うけれど、実際に見た人は興奮しているので、時間が長く感じたのだろうか?

第一、そんなに長い時間宙に浮いていたとして、一体何をしていたのだろう?
宇宙人が操縦するUFOなら、馬鹿面して見上げている人間の顔でもスケッチしていたのかも知れないが、遠隔操作のUFOだと、コンピューターの一時的な故障で、回復に戸惑ったという事かも知れない。

UFOとかネッシーとか、雪男とかの話は、何時まで経っても下火にならないのは、人類の夢をしたたかに利用する商売人がいるからだが、周囲もそれを承知しているのは、人々に夢を壊したくない願望があるからだろう。
中でも、UFOの人気が飛び抜けて高いのは、ネッシーや雪男のように夢が一つだけでなく、宇宙人という付随したもう一つの夢の存在があるからである。 だから、宇宙人がUFOに乗ってやって来るかも知れないと思うだけで、わくわくする。

けれど、大半の人はUFOや宇宙人の存在を信じてはいないのだ。 UFOが四角ばった物でなく、丸い円盤状という事は自然現象を匂わせるし、宇宙人が人間に似た形態をしているのも、人間が苦し紛れに想像した証みたいなものである。
どんなに想像を逞しくしたところで、悲しいかな人間の想像力には限界があるという事だろう。

本来、人間がとても納得出来ないイメージこそが、UFOや宇宙人の世界と言って良いと思うけれど、宇宙人を人間と同じように、五体の姿を連想するしか能がないのだ。 せいぜい、超高等生物を意識して、頭や目を異常に大きくしたり、手足を細くしたりする程度である。

仮に、UFOや宇宙人が現存する物だとしたら、雲のような物に包まれて、やって来ると 私は思う。だから、地球上からは、UFOの姿は見ることは出来ない筈だ。 二十分もの長い時間、宙を浮いていたなんて、到底考えられない。そんな無防備な姿で、果たして宇宙人はやって来るのだろうか?
何かのゴミか、お店のオープン記念で配った風船が、竜巻の上昇気流で舞い上がったのではないのか? UFOマニアが、それと知らずに舞い上がったゴミを追跡して、落ちた物体を見たら、しぼんだ風船にあっかんべえ〜の顔が描いてあったりしたら、面白いだろうなあ。

仮にUFOが現実の物だとして、機体の中から地球を見ているエイリアンが、最初に言う言葉は何だろう?
「宇宙からずっと君達を見ていたけど、なんと言う馬鹿な事をしてるかと思ったよ。だって、戦争やテロ、人殺し、放火、盗み、餓死、いじめ、昔から同じ事の繰り返しを延々と続けている人間って、進歩というものがまるで無い生物なんだと思ったね。口では平和、平和と言いながら、核やミサイルを開発し、化学兵器まで製造して、互いに敵対するなんて、私達には理解不能だね。さらばじゃ」

うん、うん、そんなところだろうなあ。人間には元々、英知なんか無いことに呆れ返った宇宙人は、何の価値もない地球には、もはや永久にやっては来ないだろう。
だから、世界中のUFOマニアは、夢はほどほどにして、現実を直視した方が良い。 でないと、UFOをかたりにする悪徳商人の餌食になるだけだ。
それでも、夢を持ちたいと言う純粋なマニアが沢山いる。ひょっとして、彼等のうちの誰かが、現実にUFOや宇宙人の確たる証拠を掴んで、我々の常識を覆してしまう日が、やって来ないとも限らない。

若い頃、私にも夢があった。私の夢は、どう考えてもお金がないと叶えられない夢だった。 一生懸命働いて、その夢を現実のものにしようとしたが、たかが一介のサラリーマンでは、 月々貰う給料のほとんどは、飲み代になって消えてしまったのだ。
夢を持ち続ければ、何時かはきっと現実のものになると教えてくれた先人には悪いが、愉楽にふけり、夢はとっくの昔にほっぽり投げてしまった。

弟がUFOを見損なって悔しがるのは、単なる嫉妬で夢を追っているからではない。 本当のUFOマニアなら、二十分も上空に浮かんで、人々を騒がせた現実離れしたUFOは、見たくないと思っている筈である。 夢を持ち続けるには、現実から目を背ける必要がありそうだ。
夢って何だろう?
                                                                                                             (完)
脱稿日: 2013/11/29.368

             次ページ へ  目次に戻る  Top へ  My Topics へ