2013/08/05.280 マンボウの作文　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　　　　なんてたって自由

政党のキャッチフレーズと言う題で、下手糞な作文を書いたのは、つい半月ほど前の事である。
選挙も終わり、政党のキャッチフレーズも色褪せたと言うか、もう、どうでも良くなった今、再びキャッチフレーズと言う言葉を持ち出すのは恐縮だけれど、実は、私がボランティアで参加している川掃除の愛護会にも、キャッチフレーズがある事を思い出したので、ヘボを承知で作文してみようと思い立った。

そんな川掃除の愛護会に、キャッチフレーズなど必要ないと思われるかも知れない。そうでなくても、定年退職した人がほとんどの愛護会なら、和気藹々と適当にやれば良いじゃないかと思うだろう。
確かにそうである。会社の仕事とは違い、仰る通り、なにも汗水垂らしてやる事はない。
人の昇進をそれとなくちらつかせ、取り巻きを増やそうとする嫌味な上司もいないし、さっぱりやる気のないぐうたらな部下に、いらいらする事もない。

みんなで集まって、世間話をしながら川のゴミを拾うだけの事である。私もそう思って、それまで各自がバラバラで掃除をしていた人を集めて、愛護会を立ち上げたのだ。
いくら和気藹々、気楽にやれば良いとは言え、やる以上はそれなりの道具や用具類を揃える必要があるし、出来たら、それらを保管して置く物置も欲しい。

何にせよ、会を運営するには、お金がないと出来ない事なので、所轄の役所に申請して、僅かでも助成金を支給して貰おうと考えた。面倒な書類もクリアして助成金が入ると、最初の年に何もかも揃えてしまった事が原因して、その後数年は赤字続きになり、私ともう一人の発起人とで、立て替える羽目になった。

いざ始めてみると、参加者は結成時に集まった数人だけで、思うように集まらない。
実は、そのような事態を想定していたので、参加募集のポスターに、気楽に参加して貰えるようなキャッチフレーズを入れたという訳である。
「自由に楽しく遊び心でボランティア」
政党のキャッチフレーズと、なんら変わらないヘボなキャッチフレーズだけれど、自由、楽しく、遊び心と言う言葉の三点セットで、参加しようか、しまいかと迷っている人に、安心感を与えるのではないかと考えて作ったのだ。

自由は私の好きな言葉である。参加するのも貴方の自由、掃除の途中で嫌になって帰るのも貴方の自由、掃除後の団欒に加わらず、さっさと帰るのも貴方の自由、なにも、一度参加したからと言って、会員登録を強制されたりする事もない。
すべては貴方の自由で、こちらでお願いする事は、楽しく遊び心でやって下さいと言うだけの事である。ボランティアなので、当たり前の事である。続けられるようであれば入会して貰い、気が変われば勝手に脱会すれば良いのだ。

このキャッチフレーズが、どれほどの効果があるのか分からないが、キャッチフレーズが無いポスターよりは効果があると思いたいのは、政党のポスターと同じだろう。
実際、我々の活動は全く自由で、定時に集まると、各自が勝手に火バサミとゴミ袋を持って適当に散って行くが、掃除の場所が重複すると一人は他の場所に行く。ご夫婦で参加されている会員は、青春時代よろしく、二人で仲良く何処かに行く。

各自でゴミを拾い集めると、適当な時間に帰って来るだけである。役所との約束事で、ゴミ拾いの他、年に二回は草刈をしないといけない。その時だけは、みんなで一斉に、鎌や刈込み鋏を持って河川敷の除草をする。それでも、私のように持病の腰痛があるから、草刈はしんどくて嫌だという人は、何時ものように川の清掃に精出す事になるのだ。

体調にあわせて、各自が出来る事をするだけだから、実に気楽なものである。参加者の中には、腰痛や膝痛は当たり前、体のあちこちに何らかの持病を抱えている人が多く、土台、あれやれ、これやれは無理な相談なのだ。
出来る範囲の事を各自で考えて、楽しく遊び心でやって欲しいと言う願を込めて作ったキャッチフレーズだけれど、本音は、一人でも多くの人に参加して貰おうという魂胆があっての事である。

定年退職すると、ただの人となって家に閉じ篭ってしまう人が多い。閉じ篭る事が好きならば、それはそれで良いに決まっている。なんてたって自由なんだから。
現役時代に、ストレスが溜まりに溜まっていた人ば、一転、自由な生活になると、反動から暫くの間は何もしないで、ぼんやりしたいと思うだろう。ぼんやりを満喫している間は良いのだが、次第に飽きてくる。

元々、何かの趣味を持っている人なら良いが、趣味が仕事だなんて豪語していた人に限って、いざ何かをやろうとしても、適当なものが見当たらないで、そのまま閉じ篭ってしまうケースが多い。
そんな人が、往々にして閉じ篭もり症候群となって、上さんに愚痴られるのだ。
愚痴が重なるとストレスになって、会社にいる時のストレスを遥かに超えるようになる。そうなると、男は一生辛抱するしかない。ストレス解消に、晩酌の一杯の酒が待ち遠しくなると言う訳である。

そうした人に愛の手を差し伸べるのは、我々川掃除の愛護会だなんて、大袈裟に考える必要はないが、待っていれば、いずれ先方からやって来る人達である。それに、こちらから愛の手を差し伸べようにも、そうした人が何処にいるかも分からないのだ。ポスターのキャッチフレーズを見た人が、
「おお！上さんから逃れられる手はこれだ！」

こんな風に思ってくれる人に、沢山参加して貰えれば、一石二鳥である。ストレス解消、環境美化、自然保護、社会貢献、情報交換、健康増進、良い事ずくめではないか。
その上、精神衛生上、これ以上ないと言うほどの楽しい閑談が待っている。だから、川掃除がしんどいと思っている会員は一人もいない。むしろ、活動日を楽しみにしている人ばかりである。

けれども、参加者が増えない事には、愛護会の存続が難しい。高齢者ばかりで、若い人の参加がないと、いずれは消滅する運命にあるけれど、愛護会を引き継いでくれそうな人はさっぱり来ない。
キャッチフレーズに魅力が無いか、共感しないかのどちらかだろう。
だとしたら、若い人をターゲットにしたキャッチフレーズを作らねばならないが、今の若者は、誰かに指示されないと動かないらしい。だから、自由の代わりに、指示ありとしないと駄目だろう。

「指示あり楽しく遊び心でボランティア」
なんだ、こりゃ？集まる度に、あれやれ、これやれと、いちいち指示していたら、こちらの自由が束縛されるではないか。第一、そんなロボットみたいな参加者じゃ、ちっとも、楽しくないジャン！
自由の価値を知らない人に、愛護会を引き継いで貰う訳にはいかない。
とは言え、消滅は時間の問題だろう。淋しい事だ。　

　（完）

脱稿日：　2013/08/05.360

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