2012/05/26.245

                                                                                                             

                                 子供はペットじゃない

近頃、未成年者による犯罪が多い。中でも、無免許運転による死傷事故が後を絶たない。 下校する小学生の列に突っ込んで、二人の生徒と、妊婦だった保護者一人の命を奪ってしまう事故が、先日起きたばかりである。
祖母から借りた車に、数人で夜通し乗り回し、挙句の果て、睡魔に襲われ事故を起こしたのだ。
同じような事故が、頻繁に起こるのは何故なのだろう？

交通事故だけではない。ひったくり、窃盗、強盗、殺人など、未成年者の犯罪とは思えない事件が、全国あちらこちらで発生している。 被害者遺族の悲しみや怒り、世間の人々の同情や苛立ちなどが、その都度繰り返される。
こんな悲惨な事故や事件は、二度と起こって欲しくないと、唇を噛み締め、搾る様な口調で話す遺族の姿を、私はもう、何回、いや何十回見たことだろう。

逮捕された未成年者の中には、事故や事件を起こした重大さを、直ぐには理解出来ずにいる少年が、多くいる事にも驚かされる。 自分の行為がどんな意味を持ち、どんな結果を伴うのか、全く予測のつかないまま行動を起してしまうからだろう。
質の悪い漫画本やテレビゲームの氾濫などで、物事を、いとも簡単に考えるようになってしまい、論理的な思考が為されなくなった事が、大いに影響しているのだろう。

度重なる未成年者の犯罪で、苦悩する被害者や遺族にスポットが当てられるのは仕方ないとしても、扶養義務を背負う加害者の親は、滅多にはテレビにも出て来ない。 気が動転して、メディアに対応する余裕など無いのだろう。

このようなケースで、私が何時も思う事は、加害者側の立場に置かれてしまった両親や家族の心情である。特に、親の苦悩は並大抵のことではないだろう。
それまで可愛がって育ててきた子供が、突然、犯罪者になってしまう。驚きと悲しみが交差して、身も心もズタズタにされる事は想像に難くない。

世間が見る目や、マスコミの執拗な取材で、両親や祖父母、兄弟に及ぼす精神的な負担が相当な重しとなって伸し掛かる。家族ばかりではない。親戚や友人、知人、学校の恩師、近所の人にまで影響が及ぶのだ。 テレビ視聴率のアップを狙って、各メディアのレポーターが、加害者の人柄や生活態度、その他ありとあらゆる事を暴き出すのだ。そうなると、人権もへったくれもない。

以前、テレビで見た映像に、加害少年の実家に押し掛けたメディアの人間が、顔を見られるのを嫌って、障子を少し開けた状態で応対した親戚の人を映そうとして、外から無理やり障子を開けている光景があった。親戚の人が障子を閉めると、またしても庭にいるメディアの人間が、閉められた障子を無理やり開ける。
すると、部屋の中にいる親戚の人が、また閉める。

障子を開けようとするメディアの人間の手が、何回もテレビの画面に映し出されるので、まるで、紙芝居を見ているような感じがした。 声だけの取材では、視聴者を満足させる事が出来ないと考えたのだろうが、あまりにも横暴なメディアのやり方に私は腹が立った。
直接事件とは関係無い人に、話を聞く態度とは到底思えない。まるで、逮捕前の容疑者みたいな扱いではないか。加害者側なら、どんな無礼も許されると言うのだろうか？

被害者側は勿論だけれど、加害者側の苦悩も並大抵の事ではない事を、メディアの人間は知っている筈である。 思いやりに欠ける事だと知っているなら、何故、そんなえげつない事をするのだろう？
仕事だから仕様がないと言うのが、大方のマスコミの考えだろう。

仕事にかこつけて弁解しようなどと考えるのは、世界中で日本だけではないか？
日本では、仕事上の事だと言えば、何となく許されるような風潮がある。仕事をしている人は善で、していない人は悪なのか？ どうもそうらしい。
障子を無理やり開けたメディアの人は、仕事と言う文字に、後押しされたに違いないのだ。

未成年者の犯罪が厄介なのは、結果的に重い犯罪だったとしても、加害者の少年に更生する余地が充分ある事を、被害者側も加害者側も知っている事である。 それなのに、被害者側は苦悩相応に厳罰を望むし、加害者側は当然の事ながら、厳罰には拒否反応を示して、更生の道を探ろうとする。

稀に、凶悪犯罪が起こると、少年の心の闇などと言うお決まりの文句が飛び交って、その道の学者や専門家がワイドショウに引っ張り出され、真面目な顔でああだこうだと言っては、高額な出演料を稼いでいるのだ。 彼等は心の闇を弄んでいるだけで、本当の事は何一つ分からないのだ。
親にも分からない事が、赤の他人に分かる訳がないではないか。 結局は、親の育て方や、現代社会の歪などが取り沙汰されるだけで、何の解決法も見つからない。
一番の被害者は、事故や事件を起こしてしまった未成年者かも知れないのだ。

ペットの犬や猫のように、甘やかされて育った子供は、他者への依存度が高く、自ら考える事なく、現実とバーチャルとのはざ間から抜け出せないまま、行動を起こしてしまうのだろう。
おまけに、身体的にも精神的にも、痛みを知らずに育っているので、暴力に対する意識が希薄で、加減する事すら出来ない。

背後で父権が介在した昔の養育から、母親中心の今の養育に変ると様相が一変した。
現在、家庭内での父親の影は確かに薄い。父親は生活費を運んで来るだけの給料自動運搬機になってしまった。 父親と違い、お腹を痛めた母親が、子供に甘いのは理屈では語れない。

我が家の場合でも、殊(こと)、子供に関する事になると、妻は盲目的に子供を擁護して、私の言い分には全く耳を貸さない。理屈は勿論、世間常識、時には科学すら否定するのだ。 無敵艦隊のような強さで、分身を守り抜こうとする。いや、守り抜いてしまう。
大抵の家庭で、こうして育てられた今の子供に、論理的な思考を期待するのは無理な話で、未成年者の犯罪が、これからも増え続けるのは必然と言えるだろう。

最近、イクメンと称し、主婦に代わって、育児や家事を預かる父親の存在が、しばしば話題になるが、やっと、日本に明るい陽が射し始めたと私は感じている。 これで、非論理的、非科学的な養育に、別れを告げる時が来るに違いない。 そうなれば、草食男子も、日の目を見る事になるだろう。男子には、盲目的に子供を甘やかす理由が見当たらないからである。

イクメンは、未成年者の犯罪を未然に防ぐ楯になりそうだ。男子失格どころか、男子の鏡になるだろう。
頼むぜ、イクメン！ 君達こそが、日本の将来を、明るいものにしてくれる救世主なのだから。

　                                                                                                             　　　　  （完）

脱稿日：　2012/05/25.325
　　　　　　　　　　
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