2011/11/09.227       マンボウの作文

                                                                                             俺の回路はパンク寸前

何が原因で機嫌が悪いのか知る由もないが、そうした時の女性の勝手気侭な言動が、世の男性諸君に、或る意味、人生を諦観するきっかけになるのは確かである。
我が愛する女房も同じで、機嫌が悪い時の妻には、ほとほと手を焼く。
口答えするには、それなりのリスクを覚悟しないといけないので、喉まで出か掛かった声をぐっと飲み込むのだ。

先日も、久し振りに風呂に入り気分も爽快、居間のソファに座って好物のビールを飲みながらテレビを観ていると、台所で夕飯の支度をしていた妻が、庖丁を片手に居間に入って来るなり、テーブルの上にあったリモコンで、いきなりチャンネルを変えてしまった。

な、なんだよ〜!折角良いところなのに!今不倫した女が危うく旦那に見つかりそうになった場面だったんだぞ。なんで、勝手にチャンネル変えてしまったんだよ。も〜。 お前は台所にいるんだから、テレビは見られないじゃないか。なのに、何で変えてしまうんだよ〜。アホッ!糞ったれ!おたんこなす!

昨日だって、俺がお昼食にスパゲティーを作った時に、使い切ったソース缶をさっと水道で洗い、それをゴミ箱に投げ入れておいたら、お前がいきなりその缶を目の前に突き出して、
「駄目よ!こんな洗い方じゃ。もっと綺麗にしてからゴミ箱に入れないと」
おっ、お前なあ〜、折角美味いスパゲティーを食べ終えて、今コーヒー飲んでくつろいでいるところなんだぞ。こんな時に、そんな事を言わなくてもいいじゃないか。

それにゴミなんだから、そんなに綺麗に洗わなくてもいいと思うけどなあ。お前だって、何時もそんなに綺麗に洗ってないじゃないか。そうだろ?
それにしても、よくまあ、ゴミ箱から缶を探し出してきたもんだ。文句を言いたい一心で、ゴミ箱を引っ掻き回してきたんだろうなあ。御苦労なこった。

コーヒーを飲み終えて、新聞を読んでいると、またしてもお前の声。
「前の人がちゃんと蓋を閉めないから、ほら!コーヒーがこぼれちゃったじゃないの!」
暗に俺を名指ししているのだ。自分でこぼしておきながら、ミスを絶対に認めないのは 昔からのお前の専売特許だから、別にびっくりはしなかったけどさ。
「俺はちゃんと閉めておいたけどなあ・・・」恐るおそる出た一言に、
「違うわよ!お父さんがちゃんと閉めないからよ。そんな事より貴方がクリスマスに作った ローストチキン早く食べちゃって!もう、誰も食べないんだから。明日のゴミの収集日に捨てちゃうからね」

おっ、お前なあ〜、まだ、半分も喰ってないんだぞ。馬じゃあるまいし、一人でそんなにバカスカ喰えるかよ。捨てちゃうだと?冗談も休み休み言えよ。何で捨てなくちゃいけないんだよ? 俺が苦労して造ったレンガの炉で焼いたチキンなんだぞ。
お前だって知ってるじゃないか。 暮の寒いなか、二週間もセメントだらけになってレンガと格闘してたのを見てたじゃないか。 その炉で焼いた美味いローストチキンを、お前に食べさせようと苦心して作ったのに、お前ったら、ろくすっぽ喰わないで、全部俺に喰わすつもりなのかね? そんなんなら、もう二度とローストチキンなんか作らないぞ!このへそ曲り! 俺は心の中で反撃したね。トホホ!
だけど、ホントに捨てられちゃったら勿体ないと思ったから、もうコケッコウ!と言うくらい 喰った、喰った。
一人であんなにニワトリの肉を喰ったのは初めてだね。 ケンタッキー・フライド・チキンの店の前を通ると、ゲップが出るんじゃなかろうか?

大掃除が迫った暮のある日の事。俺の部屋の古いレースのカーテンの事で、
「もう、あのレースのカーテンは、生地が劣化して弱くなっているから、今年は洗う必要はないからね。新しく買い替えようと思っているんだよ」俺が何気なく言うと、
「それなら、自分のお金で買ってくれば?お父さんの部屋のカーテン代は家計にはないからね」

おっ、お前なあ〜、なんちゅう事言うねん? 驚愕のあまり、俺は関西弁で叫んでしまったよ。勿論、心の中でだけど。 それじゃ何かい?会社で神経すり減らしながら、一家の主として三五年も働いたお駄賃が、ボロのカーテンと心中しろと言う事かい?全く情けないね。
お前からみれば、定年退職して月給持って来ない男は、もうお払い箱という事なんだろうな。 そうですか、そうですか。そんじゃあ、今のボロのカーテンで我慢しやす。 余計な事言って、すんまへん、すんまへん。
戦意喪失した俺は、あっさり降参してしまったのだ。

この前も、お前が台所で足が冷たいと言うから、俺が履いていたフカフカの安物スリッパを見せて、
「ほら、これと同じルーム・スリッパを買って来てやろうか?」と言ったら、
「駄目、駄目!そんなの。もっと薄くなくっちゃ駄目!ブラブラ遊んでる人と違って、私は仕事で履くんだから、そんな厚いのは駄目よ」だと。

おっ、お前なあ〜、いくら何でも、ブラブラ遊んでるはないだろ? 遊んでるんじゃないってば!汗水垂らして三五年も一生懸命働いた代償に、取り合えず、今はゆっくり休んでいるんだぞ。尤も、このままずっと休みっ放しになるかも知れないけどさ。 だからと言って、あんまり意地悪い事言うなよ。
大体、お前の頭の中はどうなっているんだい? 右脳も左脳も前頭葉も海馬も、みんな意地悪 回路につながっているんじゃないのかい? お前には思い遣り回路がないのと違う?でなけりゃ、そんなひどい事が言える訳ないもんね。

俺の姉が、最近物忘れがひどくなった事をお前に話した時もそうだ。そしたらお前ときたら、
「頭、おかしくなったんじゃない?」 そんな言い方は俺の前では言ってくれるなよ。少しは心配してくれてもいいじゃないか。 その上、姉から来た手紙の郵便番号が間違っているのを見て、
「やっぱり、頭、おかしいわよ」だってさ。おい、おい!仮にも俺の姉なんだぞ。 そう、はっきり言うこたないだろうに。

はっきりと言えば、この前友人から、珍しい川魚を貰った時もそうだ。俺が、
「この魚はアマゴと言う魚かも知れないよ」と言うと、
「アマゴ?不味い魚なんじゃないの?」と言ったなあ。 わざわざ持って来てくれた物を、そうはっきり不味い魚なんて言っちゃ駄目だよ。失礼だぞ。お世辞でも良いから、美味しそうねと言えば良いんだよ。ったく、も〜!

魚で思い出したよ。お前が姉の家に二晩泊まって、夜遅く帰った時にさ、いきなり冷蔵庫を開けると開口一番、
「夕飯に、私が用意しておいた鰻は食べたの?」と訊くから、
「ああ、鰻とエボダイの干物を喰ったよ」と言うと、
「えっ!エボダイも食べちゃったの?栄養取り過ぎよ。そんなに食べられちゃ、家計がもたないわよ!」と嫌味を言ったなあ。 それなら、前もって言ってくれれば良かったのにさ。エボダイの一匹や二匹喰ってもいいじゃないか。本マグロの干物を一匹喰った訳じゃあるまいし。

昨日だってそうだ。俺が昼飯に焼きそばでも作ろうとして、台所に立つと、ボールに野菜が盛ってあったので、
「この野菜はもう洗ってあるのかな?」と訊いたら、
「洗ってあるわよ。洗うのが大変なのよ。洗ってやらないと、何も出来ないんだから」
えっ?えっ?何も出来ないとはどういう事? 冗談じゃないよ。何時も昼飯は自分で作ってるよ。それとも、俺が野菜を洗えないとでも言うのかい?そりゃ、確かにキャベツなんかはさっと水をかけるだけさ。だけど、洗えないんじゃなくて、洗わないだけだぞ。お前みたいに、葉っぱの一枚一枚は洗わないさ。そんな暇があったら、早いとこ残留農薬を飲み込んで、グーグー鳴いてる腹の虫を退治する方が先や!

つい二、三日前のこと。リビングの床に広げて干していた濡れたパンフレットが見当たらない。 お前に訊くと、
「ゴミに出しちゃったわよ」と言うじゃないか。
おっ、お前なあ〜、あれは役所が送ってきたボランティア関係の書類なんだぞ。
捨てた? な〜んで?ここまでくると、意地悪回路もフル回転だな。 お前ったら、俺が困るのを見るのがそんなに快感なのかい?
年がら年中、勝手気儘なお前に耐えている俺の回路は、パンク寸前の危機にあると言うのにさ。                                                                                                                       
                                                                                                                    (完)
脱稿日: 2005/01/29.245

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