2011/02/08.208

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
                                             
                                                 
                                                 迷惑電話

プルプルプル〜！ プルプルプル〜！
「モシモシ！××さんのお宅でしょうか？」
「ハイ！、そうですが、どちら様ですか？」
「こちらは、本社が横浜にある○×住居サービスという会社です。横浜を中心にして、北は埼玉から南は静岡までの広範囲にわたり、事業展開している会社で・・・」
「ハッ！ 何という会社ですって？」
「○×住居サービスと言いますが」
「ああ、○×サービス？」
「いえ、○×住居サービスです」
「ああ、○×住居サービスね。住居が入るんですね。で、どんな会社でしたっけ？」
「私どもの会社は、本社が横浜にありまして、横浜を中心にして、北は埼玉から、南は静岡まで、広範囲にわたり、事業展開している会社です」
「はあ〜、それは先程聞きましたよ。広範囲に事業展開している大きな会社なんですよね。じゃあ、株式市場にも上場している会社なんでしょ？ それなら、安心ですね。何しろ今、詐欺まがいの商法が罷り通る世の中ですからね」
「ハァ〜、でも我が社は、まだ上場はしていませんが・・・」
「上場してないんですか？勿体ない。上場して広く資金を調達した方が、将来発展するんじゃないかと思うんですがね。社長さんも、そう考えていると私は思いますよ。ところで、社長さんは、何才位の人なんです？」
「社長はまだ三十台です。社長はいずれは上場も考えていると・・・」
「そりゃ、当然考えていますよ。三十台前半の方ですか？」
「いえ、後半ですが・・・」
「あっ！そう。それなら余計上場を視野に入れてると思いますよ。だって、四十にして起つと言うじゃありませんか？社長さんも、四十前に一旗揚げて、けじめを付けたいと思っている筈ですから、上場するお積りですよ、きっと。ところで、お宅は？」
「はっ？　私ですか？　私はまだ、二十台ですが？」
「いえいえ、そうじゃありません。貴方の年を訊いているんじゃありませんよ。貴方が電話した用件は何かとお訊きしているんですが、差し障りなければ教えて頂けませんか？」
「あっ！失礼致しました。差し障りなどある筈ございません」
「ああ、良かった。それを聞いて安心しました。ところで、貴方は別に、失礼なことなんか何もしていませんよ。私の方こそ失礼してますよ。さっきから、余計な事ばかり喋っているのですから」
「い〜え、そんなことありません。私こそ突然電話して失礼しました」
「そうそう、先ほどお訊きするのを忘れましたが、お宅の会社の社長さんは、初代の社長ですか？それとも、二代目社長ですか？」
「あの〜、それって、私がお答えしないといけない事ですか？」
「いえ、別にお答えして頂かなくても構いませんよ。ただ、ちょっと、気になったものですから。初代の社長さんが苦労して築き上げた会社を、二代目のボンボンが潰してしまうケースがあるじゃありませんか？
二代目社長だったら、そこらあたりが心配ですからね。まっ！それは兎も角として、ご用件は何でしたっけ？ ○×サービスさんでしたっけね」
「いえ、○×住居サービスと言いますが」
「ああ、住居が入るんでしたっけね。○×住居サービスさんね。最近、私の記憶力がおぼつかなくなりましてね、何度聞いても忘れるんですよ。失礼しました。ところで、どんな御用なんですか？ 手っ取り早く、お話しして頂くと有難いのですが」
「私もそう願っているのですが、どう言う訳か、なかなか話が進まないので、ほとほと困っているところなんです。手っ取り早く申し上げますと、私どもの会社は、現在、××さんがお住みになっている地域を中心に、地域一括サービスという形の格安料金をご提供させて頂いています。既に数件の申し込みを頂いていますので、是非、××さんもご検討お願い出来ればと思っていますが」
「ハァ？ 地域一括サービス？ 格安なの？ 何が？」
「あの〜、一括割引価格で承っていますので、特別お安くなっています」
「ところで、何の会社でしたっけ？」
「あっ！まだお話してませんでしたっけ？失礼しました。申し遅れましたが、私どもは、屋根や雨樋の清掃をしている会社です」 「ああ、屋根掃除ね。雨樋も掃除するの？ 素人が屋根なんかに乗って落ちたら、それこそ大変ですもんね。成る程ね、そこに目を付けた社長さんは、なかなか機転の利く人だと思いますが、貴方はどうお考えですか？」
「ハア〜？、ええ〜、それはもう、・・・　で、××さんのお宅では、雨樋に落ち葉など溜まっていませんでしょうか？」
「落ち葉ねえ、溜まってないと思いますよ。いやいや、溜まってません。先週の日曜日に、梯子に上って私が取り除きましたから。危なく梯子から落ちそうになり、冷や汗を掻きましたがね。もしも落ちていたら、今頃は、こうしてお宅とお話し出来ていたかどうか」
「ああ、左様ですか。危なかったですね」
「ですから、今は掃除しなくても良いと言うのが、私の結論です」
「そうですか。お断りという事ですね。それでは私も、最後に一言申し上げたいのですが、先程からお話ししていて、何か私が、からかわれているように思うのですが・・・」
「ちょっと待って下さい。貴方をからかっているなんて誤解ですよ。 私はただ、世の中には随分我慢強く、私の話に乗ってくれる人がいるもんだと、感心していたところなんですよ。けれど、貴方がからかわれているとお思いになりたければ、今からでも、からかってさしあげましょうか？」
「失礼な！ガチャン！」

何とも、間の抜けた会話だと思うかも知れないが、実はこれ、暇を弄んでいる定年退職者用迷惑電話撃退法のサンプルである。
私はまだ利用したことはないが、迷惑電話の相手次第では、参考にさせて頂こうと考えている。
迷惑電話を撃退する方法として、在りし日の母親のように、それと分かるやいなや、
「こちらは、火葬場ですが何か御用ですか？」と言うのも面白いが、これでは相手がびっくり仰天して、即座に電話を切ってしまうから、暇を潰すという事にはならない。

最近、景気が良くないせいか、この手の電話やチラシが多くなってきた。 一番多いのは、畳屋さん、次に多いのは墓地屋さん、その次は携帯電話屋さん、以下ペンキ屋さん、株屋さん、マンション屋さん、植木屋さん、そのどれもが迷惑電話なのだ。

それにしても、人の持ち物である電話やポストを、使用料も払わずに勝手に使って商売するのは、如何なものか？ 利用するなら、設備投資代の幾分かでも払うのが筋ではないのか？
先日の迷惑ファックスに至っては、な、なんと用紙十枚分。 紙代返せ！それとファックス使用料も。

　                                                                                                                                                        （完）
脱稿日：　2011/02/07.289
　　　　　　       
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