2010/07/23.195                                                                                             　                                                                                                      　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　                                                                                               草食男子予備軍？

　　　　　　　　　　　　　                   草食男子

草食男子という言葉が廃りかけた頃、今度は、肉食女子などと言う恐ろしげな言葉が流行りだした。血の滴る分厚いステーキに、しゃぶり付いている女性なんて、どう見たって尋常な姿とは言い難い。
私の年代では、男子はたくましく、女子はおしとやかと言うのが一般的な概念だから、こんな言葉を聞くと、正直ギョッとする。

女性だからと言って、牛肉や豚肉を食べない訳ではないので、何も驚くに値しないけれど、草食男子と聞いて何故かホッとするのに比べ、肉食女子と聞くと、一瞬ビビッてしまう。
それにしても、草ばかり食べている羊のように大人しい男子が増え、肉食獣のライオンみたいに猛々しい女子が、同じように増えたなんて、こりゃ、どうしたことなのか？ 世の中が少し狂い出したのではないか？　

けれども、昆虫の社会では、カマキリのように、産卵期になると、メスが栄養補給のため、オスを食べてしまう習性がある事が知られているので、それほど驚くこともないかも知れない。
それに、人間の社会では、食うのは専ら財産や心であって、肉体を食う訳ではないから、それほどビビル事もないだろう。

確かに、近頃の男の子の中には、言葉使いや仕草が女性的で、優しい感じを受ける人がいる。
テレビのコマーシャルに出て来る人気タレントにしても、そうした男の子で、オスを感じさせる男の子は滅多にいない。ほとんどが女性と同じ振り付けで、着ている物を見れば男の子だと分るけれど、仕草は至って女性的である。

言葉使いにしても、昔は女性言葉だったお肉とか、お野菜とか、お魚などと平気で言う。
一方、女の子の中には、言葉使いや物腰が、アッケラカンとして男子顔負け、異性としての魅力を感じさせない人がいる。
セックスアピールが貧弱で、そのせいか同性も異性も、何となく安心して周囲に集まって来るタイプである。

ゴルフの女子プロの中に、そうした女性を見掛けるけれど、性格は極めて積極的でハキハキしている。
ああ言う女性は、きっと自分の意のままになる草食男子を、結婚相手に選ぶんだろうなあ？　
結婚して子供が生まれれば、肝っ玉かあさんになるのは間違いなしだ。

草食男子が増えるに比例して、肉食女子も増えて行く。全体からすれば、これでバランスが取れているのだ。草食男子は得てして、料理や掃除、洗濯などが好きだから、どちらかと言うと、家事仕事が得意でない肉食女子に、付け入る隙を与えてしまうのだ。

最近、若い人達の中で、専業主婦あらず専業主夫が認知されつつある。 洗濯、掃除、料理、、買物、育児、公園デビューや井戸端会議など、主婦のやる事はすべてやるから、大変だろうと思うけれど、ご本人は殊の外満足しているらしい。
会社で一日中、馬の合わない上司の機嫌を取っているよりは、一人で家にいる方がなんぼ気楽な事か。
無理と知りつつ、ノルマの数字と睨めっこして、決算期になると決まったように、「すみません」と言う一言。上司の冷たい視線で、昇級はおろか、ボーナスも減額とダブルパンチにストレスが溜まる。

やけ酒、やけ食い、やけ賭博などで、さらに心身を痛める会社勤めに、草食男子の生きる道はと言えば、専業主夫しかないのだ。 強い男性が、外で働いて生活費を稼ぎ、か弱い女性が、家事仕事で家庭を守ると言った従来のパターンが、全く逆転してしまったのである。
つまり、不甲斐ない男の代名詞だった髪結いの亭主が、市民権を得たと言うことだろう。

それにしても、専業主夫がまかり通る世の中って、やっぱり何か変だ。草食男子の駆け込み寺みたいな気がしてならない。動物の社会では、縄張りに侵入して来る外敵を追い払い、家族を守るのはオスの役目なのだ。
それとも、人間の社会だけは例外があると言うのだろうか？そんな事はないはずだ。
どんなにストレスを受けようが、男子は外で働くべきではないのか？
愛する妻を、外敵の砲弾の中に晒させ、自分は安全な家の中で家事仕事をするなんて、どう考えてもおかしな話しだ。普通にはそう考えられても、肉食女子の台頭で、従来の常識が崩れ去ったと言う事だろう。

過日、今時の若者を集めて、結婚をテーマに、現代の価値観を語り合う真面目なテレビ番組を見た。
話しが最近の若い人の晩婚に及ぶと、司会者に熱が入り出した。どうやら、この番組の核心らしい。司会者が、結婚に懐疑的な一人の男性に向かって、
「近頃、結婚しなくても良いという人が増えましたが、貴方も同じ認識でしょうか？」
「そうですね。特に結婚しなければいけない、と言う風には考えていませんね」
三十はとうに超えたと思われる優しい顔をした男性が答えた。

「そうですか。でも、結婚しないと家庭が持てませんけど、それでも良いですか？」
「ええ、構いません」
「でもですね。若い人が結婚して子供を作ってくれないと、日本の人口が減ってしまうのではないですか？」
司会者が食い下がった。
「そうですか。でも、私には関係ありませんから」
「人口が減ると言う事は、国家の一大事だと思いませんか？」
司会者は、男性の意見に修正が加えられることを期待しているような質問をした。 確かに、人口が減ると言う事は、国家の滅亡にも繋がりかねない。政府は色々な手立てをして、若い人に子供を沢山産んで貰うべく施策を打ち出している最中である。

なのに、自分とは関係ないからと言って、結婚には消極的な人は、草食男子に多いのだ。 運良く（運悪くかも知れないが）肉食女子と遭遇して、見そめられた草食男子が、嫌々子供を作ったとしても、せいぜい一人位なものだろう。これでは問題の解決にはならない。

「国家を支える為には、人口の増加が不可欠ですけど、貴方のような考えだと人口は増えないですよね。どうしたら、良いと思いますか？」
司会者は最後の詰めに入ったかの如く、男性の回答を待った。
「他の国の人達に、産んで貰えば良いんじゃないですか？」
ありゃりゃ？　何というオチなんだろう。まるで、あの中身のないマカロニ・ウェスタンみたいな発想ではないか。

あまりに、奇想天外な返答に、司会者もその場の出演者も、みんなあっけに取られてしまったのだ。 自分中心の世界観を、これほどまでにアッケラカンと表現する彼は、もしかしたら、世界国家樹立を考えている超エリートかも知れないが、物事を深く考えて、発言したのかどうか疑問が残るところが現代の若者らしい。

いずれにしても、彼の一言で、延々と続いた真面目な討論会が、砂上の楼閣の如く、一瞬にして崩れ去ってしまった事は言うまでもない。草食男子も、なかなかやるもんですね。

                                                                                                     　　　　　　　（完）
脱稿日：　2010/07/23.276
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