2009/09/20.178
酒屋の看板「酒」？
酒は人を変える
先日、或る有名なグループサウンズの一人の若者が、夜間、真っ裸になって騒いだというので、警察に逮捕された。飲み友達と散々酒を飲み、一人で家に帰る途中の公園で、酔っ払った挙句の奇行らしい。
酩酊状態だった本人は、その事実を全く覚えていないことから、翌日の謝罪会見をテレビで見たファンは、何となく、釈然としなかったのではないだろうか？
逮捕の理由は公然猥褻罪との事だが、誰もいない真夜中の公園で、一人スッポンポンになって、奇声を上げたと言うだけで逮捕され、その上、家宅捜査までされたとあっては、ファンならずとも、一般の人達も少々可哀想だと思ったに違いない。
奇声を聞いた近くの住民が、警察に通報したらしいが、逮捕に来た警官以外、誰も見ていない状況で、果たして公然猥褻と言えるかどうか？
公然猥褻罪と言うからには、悪意を持って人に羞恥心を抱かせようとする目的意識があっての行為でなければならない筈である。酩酊状態の彼に、そんな作為を期待する事自体間違っている。ましてや、自身の奇行を全く覚えていないのなら、尚更のことだ。
報道によると、脱いだ着物が綺麗に畳まれて、きちんとベンチに置いてあったという。
恐らく、本人は公園を自宅と間違え、風呂に入った積もりで歌でも唄っていたのではないか？そうだとしたら尚の事、公然猥褻罪で逮捕するなんて、あまりにも大袈裟過ぎるではないか。
それとも、逮捕に来た警官が柔な人間で、裸を見てショックを受けたとでも言うのだろうか？
逮捕された彼は元々が本職の歌手なので、大声上げて騒げばかなり遠くまで聞こえるだろう。
けれど、真夜中にそんな酔っ払いに関わりたくないから、余程の物好きでない限り、誰も寄っては来ないに違いない。
酔っ払いのことだから、多少は警察官に抵抗して、公務執行妨害があったかも知れないが、それだけの事で逮捕され、家宅捜査までされるものだろうか？
それら一連の状況から勘案すると、警察の行為は少々行き過ぎだと思えてくる。
近頃、芸能人の間で、麻薬や覚醒剤が頻繁に使用されている事実を無視出来ない警察が、別件逮捕に走ったと言う話しも聞かれる。職務に忠実なのは良いが、自分が相手の立場になったらと考える余裕を持って、もっと思いやりのある処置が取れなかったのだろうか？
近頃、財布などを拾っても、警察に届けない人が多いそうだ。 警察に届ければ、あれやこれやと訊かれ、場合によっては届けた本人が、容疑者の如く扱われる事も少なくないらしい。
善良な拾得者も、一旦警察署内に入ってしまうと例外ではいられないのだ。
一般的に、犯人逮捕に血眼になっている警察が、手っ取り早く犯人を検挙するには、自白が一番の決め手になる。
だから、そんな扱いをされるくらいなら、拾った人は直ぐには警察に届けずに、直接落とし主と連絡が取れそうな物がないかどうか探し、何も無ければ、再びその場に捨ててしまう人が増えたそうだ。
市民の味方の筈の警察官が、市民から距離を置かれるような存在になってしまったら、本末転倒も甚だしい。 そうした警察の体質が、酔っ払った芸能人に及んだのかどうかは分らないけれど、何か私には、行過ぎのように思えてならない。彼のような有名な芸能人ではなく、ごく普通の人だったら、どうだったのか？
一晩警察で保護されるだけで終ったのではないか？ 大体、酔っ払いに悪意などある訳がない。酒を飲んで悪さをするのは喧嘩くらいのものだろう。
けれど、酒を飲み過ぎると、自分でも分らないまま裸になりたがる人がいるのも事実。
どちらかと言うと、男より女の方が多いような気がする。
以前、私は盛り場の路上で、酔っ払った若い女性が、三人の同僚が止めるのもきかず、着ている衣服を次々と脱いでいる姿を見た事があった。本人は脱ぐ事で、日頃の抑圧から開放されるとでも思ってか、脱いだ服を一枚一枚勢い良く路上に投げ捨てていた。 その顔はむしろサバサバしていて、気持ち良さそうだった。
シミーズと言ったかな？ その最後の一枚を脱ごうとしてバランスを崩し、路上に倒れたところで、同僚達が彼女を取り押さえた。
髪を振り乱し、それでも必死に脱ごうとする彼女を押さえ込んだまま、一人がタクシーを呼ぶと、散らばった衣服やハンドバックを拾い集め、半裸の彼女を車の中に押し込め、這々の体でその場を去って行った。
普段酒を普通に嗜んでいる人でも、酒量が或る限度を超えると、途端に人間が変わったようになる事がある。その限界が事前に分れば良いが、周囲の人間は勿論、本人ですら分らないから、予防の仕様がない。
昔、私が現役の頃、下請け業者の中にそんな人がいた。
普段はおとなしく、ただ黙々と仕事をしていた人だったので、最初はその豹変振りに職場の誰もが驚いたが、もう当たり前のようになってしまうと、その豹変振りを楽しむ人間も出て来たのである。
私がその下請け会社に出向き、難しい仕事も夕方には終り、支店長の提案でみんなで労を労おうと言う事になった。早速、社員数人が酒やツマミの調達に出掛けた。
残業をする人も一時仕事の手を休め、私をはじめ十人ばかりの社員が、それぞれ椅子を寄せ合って支店長の音頭で飲み始めた。
初めのうちは缶ビールで喉を潤す程度だったけれど、いつの間にか、日本酒やウィスキーが持ち込まれ、居酒屋も顔負けの様相を呈して来た。すると突然、大きな声が事務所内に響き渡ったのである。
「支店長！酒持って来い！」声の主は、すっかり出来上がってしまったその中堅の社員だった。
「ほら、始まったぞ」私の隣で出前の寿司を頬張っていた課長が、ニヤニヤしながら言った。
それを聞いた誰もがコクンと頷いた。先の展望が読めたと言わんばかりの顔である。
「何してんだ！支店長！早く酒を持って来い！」
「へえ、へえ、ただ今お持ち致します」 大柄な体格で、色が黒く業界では名物男で通っていた鬼の支店長も、その剣幕の前では形無しである。小さく肩を丸めて缶ビールを差し出した。
「支店長！今度のボーナスはドーンと弾まなけりゃいかんよ、ゲプッ！」
「へえ、へえ、弾ませて貰いやす。ビールをお注ぎしやすか？」 支店長がおかしいのを我慢するような顔をして、おずおずと缶ビールを差し出すと、
「支店長がそんないじけた態度を取って、どうすんだ！」
と一喝される始末。 みんながどっと笑うと続けて彼曰く、
「体ばかり大きくても、頭を使わなけりゃ会社は儲かりませんよ！」
下手な芝居を観るより面白い展開に、みんながやんやと手を叩いた。
こうなると、もう彼の独壇場である。昼間は無口で物静かな人間が、酒を飲むと変わってしまうという典型に、すっかり馴れてしまった支店長や同僚達。
そう言えば、先日引ったくりを取り締まる側の警察官が、逆に女性のバックを引ったくって、二人の高校生に取り押さえられた事件があったっけ。
もしかして、この警察官も限度を超えた酒を飲んでいたのかしら？
まっ！こういう事もなけりゃ、世の中面白くないか。不謹慎だねえ俺って。
（完）
脱稿日： 2009/06/12
