2008/12/28.140                                                                                                        

　　　                                                                                                   ｻﾝｾﾍﾞﾘｱの花

　                                これからが、さあ大変！

デパートの売り上げが、前年同期に比べて増えたと言う。
それはそれで結構な事であるが、庶民の生活に一向に明るさが見えないのはどうした訳だろう。 今の低金利時代では銀行にお金を預けても、ただそこに保管して貰っているというだけで、利子など全く期待出来ないから、消費者の財布の紐は固い。

我が家でも、私が定年で退職してからは、ガスや電気、水道代等の請求書がくると、妻が険しい目つきでチェックするようになった。真っ先に私が叱られるのは水道代と電気代の使い過ぎである。
妻は、私が冬の乾燥期に植木に水をやる事に文句を言う。 花も付けていないのに勿体ないと言うのが彼女の言い分で、ましてや冬枯れの芝生に水をやるとは言語道断だと言うのだ。

確かにそうだが、冬の最中、カクレミノなどの常緑樹が、水分不足の艶のない葉をぶら下げてやっとの思いで生きている様子を見ると、可哀相になってつい水をやってしまう。 芝生にいたっては、カラカラの状態の芝生を踏みつけて歩いているので、これもつい罪滅ぼしと思って水を撒く。
水道代の無駄遣いは確かに私のせいだから、黙って妻の嫌味をたっぷり聞くか、でなければ、負け犬のように尾を巻いてその場を逃げ出すしかない。

庭の植木などに興味がない妻にしてみれば、高価な水を垂れ流すなんて、全くナンセンスだと思っているのだろう。 確かに、水など撒かなくても春になればちゃんと芽を吹くのだから妻の言い分が正しいが、それとは別に、私の心のどこかに、何か割り切れない気持ちが残るのも事実である。
私が冬にも水をやっておけば、例年以上に花を付けるかも知れないと考えているとすれば、単に可哀相と言うのは嘘で、私の打算が働いた事にもなる。
植木にしてみれば、冬の乾燥期には休みたいと思っているかも知れないし、無理矢理、水を飲まされては有難迷惑と言うものだろう。だとすれば、妻の言い分に軍配が上がるというものである。

電気代にいたっては、なんらやましい事はない。 それなのに、暖房費を差し引いても使い過ぎだと妻は言う。差し引いてもと言うのは、どの位差し引いたのか分らないが、妻は、私が夜遅くまでパソコンをいじっている事が気に入らないのだ。
パソコンが電気を大量に使うと思っているらしいが、私が仕様書で確認したところ、標準構成時での消費電力は７０ワットだそうだ。僅か７０ワットである。
けれども、標準構成時とは何を言うのか疑問が残る。私に不利になるような情報だと困るので、この際、妻には言わない事にしているけれど。

１００ワットにも満たなければ、妻の攻撃を上手くかわせるに違いない。僅か７０ワットの事で、ささやかな私の趣味まで奪うような妻ではない筈だと、たかを括ったのがいけなかった。
７０ワットなんかではあり得ないと妻は言うのだ。 仕様書の何処を見て言っているのか、とも言った。これでは頭から私を信用していないではないか。その上、インターネットは、碌な情報を流さないから良くないと付け加える事を忘れない。

意地を張った時の妻ほど、やっかいな存在はない。私も意地を張る方だが、相手が少しでも弱みを見せた時点で普通は止める。 けれども、妻は違う。
相手がちょっとでも弱味を見せれば、これでもか、これでもかと執拗に襲いかかるのだ。私が標準構成時と言う意味不明な言葉を頑なに口を閉ざしていたのも、そんな妻の癖を知っているからだが、それを言わずに済まそうとする私に、何処か後ろめたい気持ちがあったのだろう。
私の主張に、妻の言い掛かりを退ける程の強いインパクトが欠けている。 ７０ワットなら、廊下の電灯一個分だと主張するのが精一杯の抵抗である。

自分としても、標準構成時の意味が分からなければ、意地の張り合いはそこそこにして退散した方が良さそうだという狡猾さが頭をもたげるのだ。 でないと、どんなとばっちりを喰らうか分らないのだ。
この場合は、妻と対等に渡り合えない弱みが私にあったからで、そうしたハンデがなかったならば、意地の張り合いがエスカレートして、とことん耐えなければならない強靱な精神力が要求される羽目になる。

水道代や電気代は何時でも紛争の種になるが、その点ガス代は比較的紛争がない。
家に一台しかないガス・ヒーターで、寒がりやの妻が必要以上に部屋を暖めるからである。 だから、ガス代については私は無罪であると確信もって主張出来る。
とは言っても、ガス代が高くつく風呂に入りたがるのは何時も私だから、形勢は時として不利である。妻は冬でもシャワーを使うケースが多く、私が風呂を沸かしても素直には入ろうとしない。

ガス代の責任を私に押し付けようとする彼女の策略だから、風呂に入るよう無理に勧めるのは危険な事である。共犯にされてしまうという被害者意識が、妻の心の中で強く働いてしまうからだ。
彼女が風呂に入ろうが、入らなかろうが、ガスの口火は点けたままにしておけばいい。 そうしておけば、いずれは風呂に入る公算が高いのだ。だから、決して入浴を勧めるような事はしてはならないのだ。

私の言葉に反発して、一度意地を張ってしまうと、妻は絶対に風呂には入らない。その精神力の強さに私は思わず笑ってしまう。逆にシャワーを使おうとしない私に、妻は時折嫌味を言う事があるが、シャワーでは体の疲れが取れないと言うと、さすがの彼女もしぶしぶ引き下がる。
未だ愛情の一欠片くらいは残っているなと、のろけてもいいのだろうか？

先日、電話回線を使った電子メールが、私の無駄遣いの標的にされたけれど、使用明細のリストを電話局が発行するようになったので、危うく難を逃れた。
私が電子メールにさほど熱心でない事が証明出来たのである。こうして年金生活を始めてみると、あらためて金の尊さが身に沁みる。
妻の厳しいチェックをクリアする事が出来なければ、年金生活もおぼつかないが、私のようなチャランポランな性格では、先が思いやられると言うものである。
この際私も心を鬼にして、妻の性格を見習おうと考えている。ここでの話ですが・・・ 　　
                                                                                                                        
                                                                                                                    （完）
脱稿日：　2000/02/17.072

＊ ８年前は良かったようですが、今年のデパートの売り上げは、サブプライムローンに端を発する金融危機の影響で、芳しくありません。景気回復が待たれますね。
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