2008/09/10.125　　　　　                                                                                                　　　　

                                                                                                        本郷小学校     

　　　　　　　　　　　　　　　　　教室完全冷房化計画　

公立学校の小、中、高の教室にはクーラーが付いていないと言う。
テレビでそんなニュースを見て、私はエッ！と思った。 学校の教室にクーラーがあるかどうかなど、それまで考えた事もなかったが、ニュースを見てエッ！と思ったのは、今更と言う気がしたからだろう。

なんでも、文部科学省が一念発起して全国３０万の教室にクーラーを設置する事にしたのだそうだ。それも１０年計画で、初年度に１００億円かけて３万教室を冷房化するのだと言う。
現在では、職員室や保健室の冷房化率はおよそ５５パーセント位で、コンピューター室は７０パーセント位らしい。
因みに、二階の北側にある私の部屋にはクーラーの類は一切ない。 閉め切った部屋で一定量の冷たい風に当たっていると、直ぐに鼻がグズグズしてクシャミが出るので、クーラーを設置したいとは思わないからだ。 それに、自然が一番いいと言う私の信念が固いせいだろう。 そうは言っても、近年ヒートアイランド現象に伴う地球温暖化で、真夏になるとその信念も揺らぐ時がある。

灼熱の地獄と言うほどではないが、風のない日の蒸し暑さには本当に参ってしまう。夜にＴシャツ一枚でパソコンと向き合っていると、体中から汗がジトーと出て来るのが分かる。パソコンやテレビが出す熱もあって、部屋の温度は３２、３度になるから堪らない。そんな日は頭がボーとして何も出来ないから、少しでも南風の入る寝室で早々と寝てしまう。

私のような偏屈は例外だから、居住スペースにクーラーがない家は少ないだろう。クーラーはなくても、除湿機とか冷風機とか、最低でも扇風機はあるに違いない。
テレビの報道によると、教室の冷房化は子供達の新陳代謝を妨げて体の抵抗力を弱めるので、好ましくないと言う識者がいると言う。 今まで教室にクーラーを付けなかったのは、そんな理由にもよるらしいのだ。 一方、蒸し暑い環境の中で勉強しても、能率が上がらないと言う識者もいる。

「そりゃあ、そうだろうなあ！」と私などは体験上そう思うけれど、反面、暑いからと言って、体の機能を損ないかねない快適空間を作ってしまったら、肉体的にも精神的にも、ひ弱な子供達が将来の日本を背負う事になると思うと心配である。 それに、汗を流そうとしない人間になってしまうと、生きる喜びが半減する。

私事で恐縮だが、私は夏にビールを美味しく飲むために、汗を掻かない日には無理にでも炎天下の庭に出て草むしりをする。下着を絞るほど汗を掻いたあとに飲む一杯のビールの味は格別で、心身共にリフレッシュ出来る。 こんな美味しい物を作り出した人に思わず喝采を送ってしまう。
だから私は夏は喜んで汗を掻く事にしている。
「やっぱり、クーラーなんか必要ないのかなあ？」

私が子供の頃はクーラーなんかなかったので、暑い寒いは当たり前の事として自然と体が順応していたのだろう。暑ければ汗が出て体の表面を冷やして天然クーラーの働きをしてくれる。
教室の冷房化に反対の識者は、子供達の健康を真剣に考えている結果だと主張するが、冷房化に賛成の人は今の若い人は精神力がなっちゃないから、暑さに負けないで 能率を上げる事など出来る訳がない。
だったら、さっさと冷房化して勉強の能率をあげるべきと言うのだ。

それに、職員室を冷房しているのでは、生徒に示しがつかないし、不公平ではないのかと いう意見もある。冷房化に賛成の人にも反対の人にも一理あるが、信念は別にして私は どちらかと言うと冷房化に賛成である。 子供達には涼しい部屋で勉強させたいと言う到って単純な理由による。 だから、１０年計画などと言わないで、一年で全部の教室を冷房化して欲しい。 国家の繁栄は若人の双肩にかかっているのだから。

教室を完全冷房化すると、勉学に燃えている生徒とそうでない生徒の学力の格差が大きくなるだろう。
やる気のある子供はどんどん能率を上げるかも知れないが、やる気のない子供は快適な環境に甘えて居眠りしてしまうかも知れない。 最初からやる気のない子供はクーラーがあってもなくても、結果は同じだから、冷房化云々の議論はやる気のある子供を対象とすれば、やっぱり冷房化して学力の向上を計った方が国家のためになると言うものである。

しからば、ひとクラス５０人中、やる気のある生徒はどの位いるのだろうか？ 半数位はいるのだろうか？
　いやいや、いくらなんでも、そんなにはいないだろう。 だったら、四分の一くらいか？　いやいや、そんなにもいないだろう。 だったら、八分の一くらいか？ うーん、そんなもんだろう。 そうだとしたら、やる気のある生徒をまとめてクラスを作り、その教室だけ冷房化すればいいではないか。
そうすれば、最初の一年でほぼ冷房化され、費用だって大幅に縮小出来るではないか。無駄な出費は止めて、血税は効率良く使わねばならない。

ここまで考えて私はハタと困ってしまった。 これでは憲法上の平等主義に反していないか？
反している、反している。こんな事したら、大変だ！　やっぱり、そうか。 じゃあ、どうする？　
やる気のある子も、やる気のない子も、あまり寒いとお漏らしをしてしまう冷え性の子も、汗を掻くとかゆがるアトピーの子もいるんだぜ？　 色々考えると、この際何もしないで自然のままの方が良いかもしれないな。 我々日本人が得意にする事なかれ主義も悪くないか。

だけどね、折角お役所がやる気を出したのなら、冷房化して貰いましょうか。 でも、ちょっと待って下さい。 暑いからと言って、全国３０万もの教室にクーラーをつけたら、そこから出る熱でますます地球の温暖化が進むんじゃないの？ そしたら、冷房の設定温度を下げて、教室の中をギンギンに冷やしてしまうさ。
そんな事をしたら、イタチゴッコになってしまうではないか。 私のように涼しい所で勉強させてやりたいと言う安易な考えは、やっぱり間違っているんだろう。教室の完全冷房化には断固反対する！
                                                                                                              
                                                                                                                  （完）
脱稿日： 2002/09/23.198

＊　現在、冷房化は京都市の１００％は別にしても、全国の小、中学校に限ると、未だ６．８％だそうです。
　　１０年計画が頓挫したのか、冷房化に反対の波が大きくなったのか、地球温暖化が深刻になったのか分りませんが、冷房
　　化は遅遅として進んでいないのが現状だそうです。
                     
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