2006/10/20.057
睡蓮鉢の浮き金魚
なんか変だよ
最近、若い人の犯罪が多発している。
大人の犯罪はともかく、若い人の犯罪は日本の将来にも関わる事なので、見過ごす事が出来ない。なんで、あんな事をするんだろうと思うほど、幼稚な犯罪が多く、犯罪を犯した青少年の親が、どんな気持ちでいるのかと思うと気の毒でならない。
愛情を注いで育てた筈の子供に、うざいからと言って親が刺されたり、手当たり次第に放火して、カメラで撮影した火事現場をネットで流したり、可愛い筈の我が子を橋の欄干から突き落としたり、他人の子供をマンションの八階から投げ落としたりと、考えられないような事件が絶えないのは何故なのだろうか？
その度に、家庭の躾が悪いからとか、学校の道徳教育が間違っているとか、いろんな意見で紛糾するけれど、いずれも分からず仕舞いで闇の中に葬られる。
今、子供の社会でも、二極化が進んでいて、経済的に恵まれない家庭の子供が塾に行けずに、学力低下を引き起こしていると聞く。じわじわと進む格差に子供達の心は病んでいると言うのに、我々大人は何の手立てもしないので、益々希望を失い、無気力に拍車が掛かってしまう。
そう言えば、最近の中学生や高校生の中に、無気力で自信がなさそうな顔の生徒を見掛ける。
顔を合わせると、直ぐに目を逸らしてしまったり、声を掛けても、会話が続かなかったりで、暖簾に腕押し状態の若者がなんと多くいることか。そうした子供が、何かの拍子に犯罪に手を染めてしまう事はよくある事なのだ。
ところが、経済的に恵まれた環境に育った子供でも、同じような犯罪を引き起こす事があって、大人達も何が何だか分からなくなってしまうのだ。
問題児でもなんでもない極（ごく）普通の少年や少女が、周囲を驚愕させるような犯罪を起こす度に、各分野の専門家がテレビに登場して、ああだこうだと能書きを並べるけれど、虚しいかな後の祭りなのだ。結局は犯罪を犯した青少年の心の闇を誰一人知る事なく、次の犯罪にバトンタッチされる。
何か、得たいの知れぬ魔物が、今日本を亡国の道へと引きずり込んでいるのだろうか？
その魔物とは何だろう？
先日、近くの小学校に呼ばれた。
以前にも、学習支援と言う目的で子供達と交流した事があり、私でお役に立つことならと、のこのこ出掛けた。
私が受け持つクラスは四年生で全部で３５人。担当の若い女の先生から紹介されて私が話し始めると、子供達は一斉に聞き耳を立てた。話し始めてから暫くして気が付いたのだけれど、廊下側の席に座っている三人の子供が、どうも私の話を聞いていない。三人共私に背を向けて、寄せた机を囲んで何かをやっているのだ。
他の生徒は私の方を向いて、私の話しを真剣に聞いてくれている。
不思議に思った私が話しを中断して、三人の方を見た。明らかに、私の話を聞かないで、各人が鉛筆を舐めながら何かをやっているのだ。私の話しが中断したところで、それまで立って授業をみていた先生が、私にこう言ったのだ。
「あの〜、あの子達はグラフを作るのが得意なんですよ。ですから、今はグラフを描いている最中なんですよ」
おい、おい、冗談じゃないですよ。今私が喋っているんですよ。いくら得意だからと言って、人の話も聞かないでグラフなんぞ描いてていいんでしょうかね？
私が近づいてみると、三人は寄せた机に、いっぱいに広げた大きな模造紙に、何かの棒グラフを描いている。
余程、何か言おうと思ったけれど、先生の言葉に唖然としてしまい、何も言わずに話しを続けるしかなかった。
もしかしたら、これが個性を生かした教育ってものなのかと、一瞬思ったくらいである。
けれど、そんな思いは即座に捨てた。個性を生かす為なら、人の話しなんか聞かなくてもいいのか？
いいですか。私は学校に請われてやって来た人間ですよ。自分から頼み込んで、話しをしに来たんじゃないですよ。それに、聞きたくなければ、勝手な事をしてもいいんですか？
そうする事が当たり前と、子供達が思っているのではないかと思うと私はぞっとした。
私は今の教育方針がどういうものか、皆目知らない人間だけれど、礼儀は知っている積もりである。
だから、教育の現場で、こんな事が平気で行われている事に私はショックを受けた。西洋諸国のようにキリスト教がある国なら、誰でも日曜の礼拝などで、人が生きる上での規範、人間尊重の精神や生命に対する畏敬の念などを、牧師から教えられる機会があるだろう。同じ宗教でも、残念ながら日本の仏教界はそうした努力をして来なかった。
青少年の犯罪が多発するのをみて、学校での道徳教育で補おうとしたのではないのか？
そもそも、道徳教育って何なんだろう？どんな人が、どんな事を教えているのだろう？
教育の一環として招いた人間の前で、人の話しに背を向けて、グラフを描く事を容認している先生が教えるのだろうか？親達はそうした個性教育が、実際に行われている事を知っているのだろうか？
もしかして、道徳教育は子供達の機嫌を取るためにあるのではないか？
教師が生徒の機嫌を取り損ねると、忽ち教師を中傷するメールが流れると言う。それが恐くて、叱るどころか子供の言いなりになる教師が少なからずいるとも聞く。親の権威を、とうの昔に親自身が放棄してしまった今の日本は、何事も子供中心に動くので、一部の甘やかされて育った子供が、早くして犯罪を犯す危険が高くなっているのだ。
犯罪を犯さないまでも、自己中心で自分勝手な大人になるのは目に見えている。
そうした者同士が結婚して子供を作るのだから、ますます、自己中心的で思いやりのない社会が出来る。
今の親のなかには、学校で子供が喧嘩すると、
「学校は一体何やってるんだ！」と怒る人がいるらしい。大事な子なら、人様に任せず自分で教育するのが親の務めではないのか？尤も、自分が出来ない事だから、すべて学校任せなんだろうけど。
それならばと、学校が親が出来そうもない事を考えて、補習授業を設けると、
「塾に遅れるから、早く帰してくれ〜！」と校門で待ってる親達が悲鳴をあげるそうだ。
経済的に払えない訳でもないのに、学校の給食費を払わない親が最近増えたということだ。子供の弁当も作らない親なのに、望んでもいない給食を、勝手に食べさせる方が悪いと屁理屈を言うらしい。
本屋で万引きする人間が後を立たず、それどころか、近頃、図書館の本が頻繁に無くなるそうだ。
もう、こうなると、道徳もへちまもあったもんじゃない。
やはり、今日本は亡国への道を歩んでいると言うのは本当かも知れない。
個性を生かす筈の教育が、教室という密室の中で、得体の知れぬ魔物に変化してはいないだろうか？
全国の小学校の教室で、ぞくぞくと生まれる自己中心的な子供達。
ここ数年、生徒の先生への暴力が激増している。突然殴り掛かったり、蹴飛ばしたり、はては彫刻刀を投げ付けたりと、暗澹たる状況を呈している。むかつくと言う理由だけで、自宅に放火したり、親をも殺めてしまう子供は、魔物化した教育の犠牲者なのだ。このままでは、日本の将来は暗い。
今早急に教師の弱体化、孤立化に歯止めを掛けないと大変な事になる。
なんか変だよ、なんて暢気な事を言ってる場合じゃない。じゃあ、どうすればいいのか？
他人の子供でも叱ってみよう。分別の付かない子供達に、過度に自由を与えるのは大人達の怠慢ではないのか？国の宝は大人達みんなで、ゴシゴシと磨かねばならない。
結論。一人ひとりの勇気ある言動が、亡国をストップさせる特効薬になる。と、思いませんか？
（完）
脱稿日：2006/09/18.255
