2006/02/20.033

                                                                                              　   株で儲かりますように！

株は怖いよ

株を買うと儲かるというので、今まで株取引の経験がない素人が、ぞくぞくと証券市場に参入する事態が起きている。それまでは、株は一部の経済通しか手を出さなかったのに、誰もが簡単に情報を得る時代になり、サラリーマンは勿論、家庭の主婦や学生、中には親から貰う小遣いで株を買う子供までもが現れた。
インターネットの普及で、証券会社に払う手数料が、従来に比べて格段に安くなった事や、規制緩和で株の分割が自由になり、少額でも買えるようになった事などが原因らしい。

そうとは言え、株で大儲けする事って、そんなに簡単なものなのだろうか？
家庭の主婦が株に費やす金額は、旦那に内緒でへそくった金なので、儲けたとしても高が知れている。
けれど、中には信用取引で大金を動かしている肝っ玉かあさんもいるから、どっさり儲けている人がいてもおかしくない。

いずれにしても、株を買える人はそれなりに資金に余裕がある人だから、よしんば損をしたとしても、一時的なショックで済むからいい。株を買えば儲かるという景気のいい時世に、買いたくも買えない人のショックだってあるのに、世の中の人は、損をした人には同情するけれど、買えない人には同情はおろか、見向きもしてくれないのだ。ちょっと、オーバーかな？

そんな負け組みの中には、金はあってもパソコン音痴で買えない人もいる。
インターネットを使わない店頭での株取引は、売買手数料が数倍も高いので、売ろうか、買おうかと迷っているうちに、タイミングを逃がしてしまう。先日、インターネットで商売をしている会社が手品のような巧妙な方法で自社の株価を吊り上げ、忽ちのうちに業界はおろか、国内でもトップクラスの会社に成長してしまった。

ところが、その巧妙な手段に違法性があって、その会社の役員数名が取り調べを受けたのである。株価は暴落して、連日のストップ安という事態になった。
狼狽した多くの株主が投売りしたので、株価は半分になっても売買が成立せず、翌週に持ち越されたが、それでも値が付かない。そうこうしているうちに、証券取引法違反容疑で社長までもが逮捕されて、とうとうその会社の株は、管理ポストという不名誉な場所に移され、紙屑同然になるのは、時間の問題になってしまった。

それほどに怖い株取引だけれど、ネット市場に参入した素人投資家はそんな災難にもめげず、それでも株で儲けようと奔走する。株投資の怖いところは、過去にも度々大暴落が起きた事実があると言うことだ。
大暴落とまで行かなくても、一部の業界にちょっとした悪い材料が出ると、ドミノ式に全部の株価が暴落してしまい、売ろうとしても値が付かないまま、あっと言う間に大損をしてしまうのだ。

国内の景気がいいからと言って安心していると、思い掛けない事が地球上の何処かで勃発して、それが引き金になり、世界中の市場が冷え切ってしまう事だって往々にしてある。
著名なエコノミスト達が、口角泡を飛ばして、ああだ、こうだと論評しているけれど、当たった試しが滅多に無いのが株取引の難しいところなのだ。

昔、私が冷やかし半分で応募した政府放出の電電公社の株が抽選で当たり、一株買ったところ、それがあれよあれよという間に、三倍にもなった事があった。
株を売って儲かった金で、新車を一台買った時の興奮は今でも忘れられない。

株は競馬や競輪などの賭け事と同じで、最初に儲かってしまうと病み付きになって、止められなくなってしまう。
勿論、会社が倒産しない限り、競馬、競輪と違って、投資した金がゼロになる事はない。
いくら下がっても、売らなければ損は出ないから、二台目の車が買えるまで、じっと待てばいいだけの話しなのだが、それがそう簡単な事ではない。

株価がちょっとでも下がるとイライラして貧乏揺すりが始まる。２割も下がると、絶望感で打ち拉（ひし）げられる。５割も下がったら、恐らく、精神に異常を来たすに違いない。
逆に、株価がちょっと上がると、嬉しさのあまり、眉毛と頬の筋肉が緩んでダラリと垂れ下がってくるだろう。
２割も上がると、都内の一流ホテルで、家族揃ってフランス料理のフルコースを食べている光景が目に浮かぶけれど、もうちょっと上がるまで待とうと欲を出す。

３割上がり、４割も近いところまで上がると、すっかり強気になり、売る気配がどっかに吹っ飛んでしまうのだ。
欲が欲を生み、ルンルンした気持ちで持ち続けていると、なんとなんと、５割近くも上がったではないか。
もうこの辺で売ろうとパソコンのスイッチを入れ、その日の高値を睨みつつ、マウスを片手に待ち構えていると、どうした事かズルズルと下落し始める。

そう言えば、今朝テレビで、米国国内の雇用統計が悪化したというニュースを聞いたっけ。
これでは、フルコースは難しいかな？と頬杖付いてボンヤリ画面を眺めていると、その日は全面安の展開になって、ドドーンと下がってしまう。これで、暫くの間、フルコースはお預けだと沈んだ気持ちでパソコンを閉じ、株の事は忘れようとする自分が、いじらしくなってしまう。

株取引をマネーゲームのように考えている素人投資家は、一度高値を付けると、それ以下で売ると損をするような気がして、なかなか手放せない。
一度は下がっても、近い将来また上がるだろうと期待するけれど、そんな期待を踏みにじるかのように、更に株価はどんどん下がって、あっと言う間に、５割アップがフイになってしまうのだ。

だから、株を持つのは金さえあれば誰でも出来るけど、儲けるとなると難しい。
高値で買ってしまった人は、その後に多少ぶり返したとしても、当初の株価に戻るのにかなりの時間が掛かり、結局は塩漬け状態のまま、人生の１０分の１くらいの時間を浪費してしまう。
たまたま買った会社に良い材料が出て株価が上がり、いいタイミングで売ったとしても、利益は所得税の対象になり、さらに住民税や健康保険料にも連動してアップする仕組みに、仰天する人は私だけではないだろう。

いつぞや、私が現役の頃、上さんに内緒で貯めたヘソクリで買った或る会社の株が急騰したので、小遣いに困って売ったところ、翌年の住民税や健康保険料が大幅にアップしてしまった。
上さんに執拗に問い詰められて、白状したのがいけなかった。
それ以来、株の話しが出るたびに、
「株なんか売って貰っちゃ困るわよ！住民税も健康保険料も上がって、家計が火の車になっちゃうからね・・！」
それは、もう、貴方、何時までもネチネチ言われるのは堪（たま）りませんよ。
ここでの話しですが、実はもうひとつ、売れば儲かる株があるんですが、売れないで困ってるんですよ。
株取引はどっちにせよ怖いもんですね。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（完）
脱稿日：2006/01/28.252

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