2006/01/31.031                                                                                                                         

                                              ピエロのような子供達

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ファンタジー
僕の前をスニーカーを履いたピエロみたいな子供達が歩いている。全部で五人。
子供と言っても高校生くらいの男女が二人づつ。それでは一人足らないじゃないかと、お叱りを受けるかも知れないな。
そう、僕がいくら目をこすって観察しても、残りの一人が、男か女か分からないから、それ以上の事が言えず、実は僕も困っている。

算数が出来ない訳ではなく、答えは分かっているのに、数式が書けない。つまり男が３で女が２なのか、女が３で男が２なのか分からないのだ。５人全員が耳にピアスをつけ、髪の色は金髪や茶髪で、男女の区別がつけにくいが、４人までは体付きで何とか分かる。
がに股の短足や、顎を突き出し背中を丸めた姿から恐らく男だろうし、とっくりのような腰や細く尖った左右の肩胛骨の形から二人は女に違いない。睫毛が５、６本抜け落ちるまで目を擦っても分からない残る一人は、前から見ないと男か女か分からないが、まさか彼等の前にしゃしゃり出る訳にもいかない。

体付きで判定しようにも、細目の体は男とも女とも思えるし、さりとて他に区別するものは何もないから困ってしまう。茶色のロンゲを内巻きにして、細い首やすんなりしたなで肩は女を思わせるけれど、とっくり型の腰がない。尤も、とっくりにも色々あって、くびれ方がそれほどでなく、やや寸胴の物もあるから油断が出来ない。
そのやや寸胴のとっくりが僕の前をひょろひょろと歩いているのだ。さすがの僕もこれには本当に困った。
男か女か、区別がつかないと言う程度の事で、困る事もないけれど、はっきりしないと何だか気持ちが悪い。
何もここでクイズ番組に出ているわけではないので、当たったところで賞金は貰えないけれど、男でない事を祈りながら、それでもやっぱり男と答えてしまって、それが正解だったらどうしよう。

最近までドイツに住んでいた或る日本の女性評論家が「ひ弱な男とふわふわした女の国日本」と言う本を出版してベストセラーにもなったけれど、彼女の言う今の日本の男性を象徴しているような男だったら、何とも情けないではないか。ひ弱な男かどうか、外見だけでは分からないけれど、僕が情けない気持ちを持った瞬間がやって来た。偶然振り返った顔はまさしく男の顔だった。
「あーあ、やっぱり男だったか」
それにしても、最近の日本の男性の中には、確かにひ弱い感じの若者が多い。それに反して、女性の中には元気の良い男勝りの女性が増えている。今話題になっている環境ホルモンが原因でオスのメス化、メスのオス化が進んでいる証拠ではないだろうかと勘ぐってしまう。

そう言えば、ニュース・ステーションと言う夜のニュース番組に登場するお天気キャスターの女性の元気の良いこと。私は彼女の顔がブラウン管に映し出される瞬間、「うわっ！　環境ホルモン！」などと叫んでいる。
パッチリ開いた二重の目は大きく、怖れる物は何もないと言う表情をしている。言葉は悪いが、女の色気など微塵もない。元気溌剌、病気など全く寄せ付けないと言う有様は見ていて思わず苦笑するほどである。
主役の男性キャスターは彼女が登場すると、横でニヤニヤして、それとなく、彼女の元気さを揶揄しているから面白い。カメラもそれを意識してか、出番が来ると、いきなり彼女の顔をクローズアップする。

天気図から彼女の顔に変わる度に僕は「うわっ！環境ホルモン！」と叫ぶ。
彼女には失礼な事かも知れないが、環境ホルモンの典型的な犠牲者かと、思わず同情してしまう。
「うわっ！環境ホルモン！」を三回ほど口走れば、お天気ニュースが終わるけれど、彼女に向かってメスのオス化などと言おうものなら、彼女の強烈なパンチがブラウン管から飛び出して来そうな気がする。
メスのオス化にしろ、オスのメス化にしろ、今は性をそれほど意識しないから、どっちでもいいのかも知れないなあ。自分は男性だと思い込んでいる女性や、その反対もあるから、今更騒ぎ立てる事でもないが、男性の生殖能力が失われては困る。

だけど、人類を繁栄させる為の食糧が環境ホルモンで汚染され、その結果人口増加にストップが掛かれば、地球上の人口をコントロールする事になるから、まーいっか。
人間の場合は、増え過ぎた鹿や熊のように鉄砲で打つ事は出来ないし、犬や猫のように保健所の世話になる事も出来ないのだから、環境ホルモン万々歳かも知れないのだ。

大分話しが逸れてしまったけれど、最近の日本の若者達の姿はどうもしまりがない。
着ている物は大体が大きめで、ズボンなどもやたらと大きい。髪の色は西洋人でも、顔はれっきとしたモンゴル系。いくら流行だからと言っても、日本人のアイデンティティーまで失ってしまった若者達を見ると、宇宙の何処からかやって来たエイリアンかと思ってしまう。今の世の中平和だからいいけれど、もしも、戦争にでもなったら日本は瞬く間に滅びてしまうだろうな。だって、国旗も国歌も大事にしない国民にナショナリズムは期待出来ないし、一致団結は無理かも知れないからだ。

と思ったけれど、大事な事を忘れていた。日本人の権威に弱い全体主義体質があらゆる組織の中で脈々と受け継がれている事を。
戦争に勝つ為の僅かな光明を見い出すとすれば、この一点だろう。
きっとピエロのような子供達も、戦争ゲームの中の兵隊さんみたいに、ボタンひとつで猪突猛進してくれるに違いない。
                                                                                                         （完）

脱稿日：1999/06/06.031


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