2005/04/30.004        マンボウの作文                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        犯人は誰?                                                                                               

カラスには悪いが、私の家ではほとんど生ゴミは出していない。
野菜などの屑や流しに溜まった御飯粒などの生ゴミは、庭にあるコンポスターに投げ込んでしまうからである。コンポスターと言うのは固有名詞かどうか知らないが、プラスティック成形された直径70センチ程の丸形の生ゴミ処理容器である。
これがなかなかの優れ物で、投げ込まれた生ゴミは一年も経てば腐食して栄養満点の黒い土に変わってしまう。それをプランターに入れパンジーなどを植えると、立派な花が咲いて一石二鳥の役目を果たす事になる。

我が家ではカラスの好きそうな肉や魚の食べ残しを捨てる事は滅多にないし、日にちが経ってカビが生えたり、固くなってしまったパンは小さく砕いて庭にある小鳥の餌台に置く。
結局生ゴミとしてゴミ置き場に持って行くのは、魚の骨と臓物、それに使い終えた食用油等でほとんどないに等しいくらいである。ゴミ問題はゴミを出さない事が原点なのに、出たゴミをどう処分するかに喧々囂々となる。
ゴミ袋にネットを被せたりして、カラスを目の敵にしているうちはいいが、カラスの被害が度重なると、ぬきさしならぬ事態が発生する。
ゴミの出し方が悪い人がいるとか、ネットをしっかり掛けない人がいるとか、住民同士が疑心暗鬼に陥ってしまう。カラスに喰い破られたゴミ袋の中を掻き回して、ゴミの所有者を突き止めようと、さもしい了見がまかり通るようになる。ゴミの中から郵便物を探してゴミの持ち主を特定しようと、探偵さながらの行為が極秘のうちに行われたりする。嫌ですねえ。恐いですねえ。

大抵の自治会では、予めゴミ当番を決めていて、ゴミ収集車が持ち去ると当番の人がネットなどを片付ける事にしている所が多い。カラスや猫に荒らされて生ゴミが散乱している時が悲劇の始まりである。
マヨネーズや油類などが流れ出ようものなら、加害者であるカラスより被害者であるゴミの所有者が非難の標的になってしまう。ゴミを出した人にそれほど非がなくても、もう後の祭りなのだ。
探偵ゴッコの末、犯人が割り出されると鬼の首を取ったような快感に襲われるらしい。
こんな事が繰り返されていると、何時か住民達の間に亀裂が入らないかと心配になる。
そんな人間達の悩みを少しでもカラスが分かってくれたらと思うけれど、それは人間のエゴと言うものだろう。カラスだって、生きるがためには喰わねばならないし、第一、人間が出したゴミを減らしてやっているのに、なんで目の敵 にされるのか理解出来ないだろう。

ゴミ問題はこれほど深刻なのに、少しも解決出来ないのは何故なのか?
今の飽食時代、食べ残しが多い事と過剰包装が原因だと分かっていながら、そのどちらも改善されてはいないのだから仕方ない。それにしても、食べ残しが多いと言う事はどういう事なのだろう?
一度に食べ切れないほど作ってしまったとしても、翌日食べればいいではないか。
今は機能満載の冷蔵庫もあるのだから、捨てる事にはならない筈である。もしかしたら、食べられないほど不味い料理を作ってしまったのか、或いは紙屑を捨てるように何も考えずに無造作に捨ててしまったものかも知れない。

いずれにしても食べ物を捨てると言う事自体、私には全然理解出来ない事である。
私が子供の頃、食事をする時は両手を合わせて、「頂きまーす!」と必ず言った。
別に深い意味を知った上での事ではないが、食糧難の当時、御飯が食べられると言う何か神秘的な思いがした。
下手をすると御飯が食べられないと言う危機感が、子供心の何処かにあったのだろう。
ほかほかの御飯を箸でつまんで一口入れた時は、思わず笑みがこぼれたものである。御飯やおかずを少しでも残そうものなら、親から叱られたし、叱られて当然と思ったものである。
だから、今でも私は茶碗の中の御飯粒はひとつ残らず拾うし、皿の中のおかずは跡形もなく、舐めたようにしてしまう。焼き魚でも、煮魚でも、残るのは頭と骨ばかりで妻も呆れる程綺麗に食べ尽くしてしまう。
食べ終わった食器は少量の洗剤だけでそのまま水を流せば簡単に洗えてしまうほど綺麗なのだ。
それに、自分の労働で得た食べ物を粗末にするのは、自分を粗末にするようで嫌だし、世界のあちこちで飢えで死んで行く子供達がいると思うと、たとえ少しと雖も食べ物を粗末にする事など出来る訳はない。

話しは戻るが、カラスはどうして生ゴミのある袋を見破る事が出来るのか?
妻は臭いだと言うが、私にはそうは思えない。だって、犬や猫のようにカラスが鼻をヒクヒクさせて臭いを嗅いでいる姿なんか見た事ないし、それにきっちり閉じているゴミ袋から臭いが洩れるとは思わない。
けれど、絶対間違いないと言い張る妻に、これ以上論争を仕掛ける気はさらさらない。せいぜい、
「そうかなあ? カラス特有の勘じゃないのかなあ?」
カラスの勘なんてあるのかどうか、随分自分もいい加減な事を言うではないか。
いや、やっぱり特殊な勘が働いて、生ゴミが入った袋を見分けるに違いない。勘と言うよりは経験から来る見分け方で、ちょっとした事で分かるのだろう。それに、危険なゴミから作業員を守るためにと、透明なビニール袋の使用を義務づけている現状では、カラスの命をも守る事になっているのかも知れない。

そのゴミについての話し合いがあると言うので、先日妻は近所の家に行った。
カラスの被害に合わない為のゴミの包み方やネットの掛け方などが検討されたと言うのだ。
ゴミの当番をうっかり忘れてしまう人の為にゴミ当番用の木札を作り、当番の人に回す事も決められ、その
木札の製作は事もあろうに私に白羽の矢が立ったと言うのである。
大工仕事が好きな私の姿を、近所の主婦達が度々見ていたのだろうと思う。

家にあった端材で作った木札を妻に見て貰い、了承を得たのである。翌日、
「次の当番はお隣の湯川さんだから、早速ポストに入れといたよ」私が言うと、
「えっ! 何でそんな余計な事をするの? そんな事は女の仕事なのよ! それに、班長さんに見せてからじゃないと、回せないのよ、馬鹿ねえ!」ひどい剣幕で妻が怒るではないか。
余計な事だったのかと小さくなっていると、
「この前、ゴミ袋から油が道路に流れ出してお当番の人が大変だったらしいのよ。それがきっかけでみんな集まって話し合いをしたんだから。貴方が持って行ったゴミ袋から流れたんじゃない? 台所に置いといた油の入った牛乳パックをちゃんと始末してから、ゴミ袋に入れてくれた?」
雰囲気はいっそう険悪である。
「いや、だって油は薬品で固めてあると思ったからそのままゴミ袋に入れたよ」
「馬鹿ねえ! 未だ固めてなんかないわよ。じゃあ、あれはうちの袋だったんだ! 全く余計な事しないでよ! モー!」妻はプリプリである。

妻の朝寝坊を知っている私が、ただ善意でゴミ袋を持って行っただけなのにと思うとちょっと悔しいけれど、余計な事と言うのであれば、今後は一切ゴミ捨てからは解放される権利を得たも同然である。
それにしても、油を流した犯人が自分だったとはチートモ知りませんでした。ゴメンナサイ! 
ゴミ当番の木札は罪滅ぼしの印として作らせて頂きました。ちょっと調子いいかな? 
でもですよ、この世にカラスと私のような粗忽者がいる限り、ゴミ問題は永遠に不滅です。
なーんちゃって!                       
                                              (完)
                

脱稿日: 2002/03/27.182


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