2016/03/15.339

　　　　　　　　　　　　　　　                　　猫ブーム到来か

このところ、猫を飼う人が急増して、数では犬を超えたと言う。
野良猫は困るけど、飼い主のいる猫なら結構なことである。ワンワン吠えてうるさく纏わり付く犬と違い、猫は人間にまとわりつかず大人しいので、静かな生活を好む人には格好のペットである。

私が子供の頃は、猫はネズミを捕まえたり、食卓の残り物を食べてくれたり、冬にはお婆ちゃんのカイロ代わりになったり、猫にもいろんな分担があって、愛玩用というよりは、家族労働の一翼を担った貴重な存在だったような気がする。
犬にしても、家族の一員と言うよりは、泥棒を見張るための用心棒なので、寒くても家の中で飼う事はなかったし、知らない人に吠えるのは、任務に忠実と思われていたのである。

ところが、最近の猫は、一般の家庭にネズミが居なくなった事や、取り扱いが容易なペットフードが主流になると、昔の猫のように、ご飯に味噌汁をかけた猫飯や、煮魚の残り物などには目もくれず、好物のはずの出汁取り後の煮干しすら食べない役立たずの猫になってしまった。肥満して動作が鈍くなると、ペットとしての価値が上がった猫もいたのだ。
それに、猫は犬のように散歩をさせる事もなく、ほっとけば良いだけの事なので、高齢化社会の昨今、お年寄りには飼い易いペットだと言う事もあり、ブームに拍車が掛かった理由だろう。

犬の場合は、トイレの躾けが必要だけれど、猫はトイレの場所を勝手に決めると、同じ場所で用を足すようになるので、飼い主からすると手間が省けて良い。
猫は元々きれい好きで、犬のように体を汚して、飼い主にお風呂に入れて貰う必要が無い事も、飼い易い事の一つだろう。とは言え。猫にも欠点があって、放し飼いのため見えない所で、どんないたずらをしているか分からず、もしかして、近所に迷惑を掛けていないかと、飼い主を心配させる事である。

柱や家具などで爪を磨いて傷を付けるのは、愛猫家にとっては欠点とは考えないから良いとして、隣人が大事に育てている花壇の花を、オシッコのあと、後ろ足で土を蹴り上げて滅茶苦茶にしてしまう事や、綺麗に刈った芝の上に所構わずウンチをして、雨上がりの時の悪臭の原因を作ってしまう事など、愛猫家が気にする事が多々あるのだ。
猫特有の可愛らしさは、放し飼いにこそあるので、猫に首輪をして飼えば、猫ではなくなる。
こんなジレンマに悩む愛猫家は沢山いるだろう。

けれど、猫にはどんな動物にも負けない癒やし効果がある。近年、高齢者用施設などで、入居者の精神的な癒やしに、猫が一役買っていると聞く。
捨てられる運命の猫を、セラピー猫として飼えば一挙両得である。野良猫の中に、癒やし感を持った猫が、どれほどいるか分からないが、元来猫には不思議な力があるので、ただ居るだけで癒やし効果があるに違いない。

それでも、お年寄りの中には、猫が嫌いな人もいるだろう。猫の髭を見るだけで、汚らしい無精髭を剃らなかった亡き夫を思い出してしまう人や、猫の抜け毛が気になって、年がら年中掃除機をかけないと気が済まない神経質な人にとっては、猫は天敵みたいなものかも知れない。
犬と比べて、猫の眼はとにかく気味が悪くて嫌という人や、愛猫家が可愛いと好む猫の肉球を、何を踏んでいるか分からず汚いから嫌だと言う人は、何時の時代にもいる。そうした人達には、癒やし効果は期待出来ないが、癒やされている人の笑顔を見れば、間接的ではあるが、自身も癒やされている事に気が付くかも知れないのだ。

猫は人間で言うと、若い女性と同じような動きをする。追えば逃げるし、放って置くと知らぬ間に、膝の上に乗っていたりしてなかなか扱いにくい。但し、猫にも個性があって、野良猫の中には追っても放って置いても、膝の上どころか、足下にも来ない警戒心の強い猫や、人と関わりたくない人間がいるように、猫にも人と関わりたくない猫がいる。そんな猫を飼っても、癒やし効果はほとんど無いから、さっさと野良猫の社会に戻してやる方が良い。

猫ブームに乗って、ペットショップは勿論、最近になってオープンした猫カフェとか、猫専門の本屋が繁盛しているそうだ。猫の可愛い仕草を見て、ホッとする人が如何に多い事か。猫に癒やされストレス解消に役立つなら、下手な精神科医では、猫に太刀打ち出来ないではないか。

アメリカの或る調査期間の研究に寄ると、猫を飼っている人は、飼っていない人より、心臓発作を起こす確率が、３０パーセントも低くなる事や、猫に触れるだけで８０パーセントの人が、血圧や心拍数が低下すると報告されている。
心臓病は、長い間のストレスの影響が原因の一つと考えられているので、猫の癒やし効果が良い影響をもたらしていると結論付けている。犬は動きがせわしくて、犬のペースに巻き込まれてしまうから、癒やされる前に疲れてしまう。
だから、アニマルセラピーの筆頭は、間違いなく猫と言う事になる。

猫は人間には優しいけど、猫同士の喧嘩は凄まじい。先日、駐車場で車を洗っていると、道路から二匹の猫が喧嘩をしながら、私の足下に転がり込んで来た。その時の鳴き声は、悲鳴と言って良いほどで、取っ組み合って、互いに体のどこかに噛み付いたまま離れない。
二匹で団子状になって、もの凄い勢いでドタンバタンと転げ回っている。猫が間違えて、私の足に噛み付かないかと思わず、「シッ、シッ！」と、追い払ったけれど、猫は私の存在など目に入らないかのように、取っ組み合ったまま、ギャア、ギャアと鳴いているのだ。暫く激しくもみ合った後に、勝負が付いたとみえ、一匹が「ギャア！」とひと鳴きすると、一目散に逃げ出したのだ。

勝利した猫は、最後の止(とど)めを刺そうと、その後を追い駆けて何処かに消えてしまった。
普段大人しい猫には、想像も付かない激しい戦いを目の当たりにして、アニマルセラピーの筆頭に、猫を選んでしまった事を、私はちょっぴり後悔した。あんな死闘を、高齢者施設の中でやられたら、二度と猫に寄り付かないお年寄りが出てくるに違いない。癒やしはもう結構と言われるだろう。

高齢化の波に便乗して、猫がブームになっている裏で、年間１０万匹もの猫が、人間のエゴで殺処分されていると言う。まるで、縫いぐるみの猫を、飽きたから捨てるという感覚でしかない。保健所や愛護センターに引き取られた猫は、通称ドリームボックスと言う簡易処分機に押し込まれ、２０分掛けて炭酸ガスで窒息死させるらしい。
ドリームボックスとか愛護センターとか、如何にも猫の楽園のような名称を使って、飼育放棄をした飼い主が、気楽に猫を持ち込めるようにしているのだろう。

これでは、全く問題の解決にならない。猫や犬を飼う人には、事前にビデオを見せて、殺処分の現実を認識させないといけない。その上で、猫ブームが到来するとしたらブームは本物である。

（完）

脱稿日：2016/03/14.418

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